. ページ28
.
あの夜の帰り道、ふたりでタクシーに乗ったところまでしか俺は知らない。
あのときに、何かが起こったのかもしれない。
むしろそのつもりで、Aにとって良い展開があればと思ってふたりきりにさせたのだけど、実際には俺の思っていたようには進まなかったのだろうと直感した。
昨日の夜のAの急変を思い出すと、辻褄が合う。
ずっと一途に持ち続けていた賢ちゃんへの想いを、あんなにもあっさりと捨てようとするなんて、何かがおかしいと思っていた。
リリーとつき合うことにした、と言ったときのあの軽さは、賢ちゃんに対する気持ちの重さとあまりに釣り合わない。
「気になるんやったら、賢ちゃんから連絡入れてみたらええんやない」
言った後に、それはまずいか、と一瞬後悔した。
賢ちゃんから届くメッセージは、諦めようとしているAの心をかき乱してしまうかもしれない。
「うん、そうやな」
「じゃあ、また飲み行こな」
「うん」
手を振り合って、賢ちゃんとはそこで別れた。
" ゆずるさん、いつあいてる？ "
家への帰り道に寄ったコンビニを出たところでAからメッセージが届いて、はっと思い出した。
" 鍵を返さなきゃ "
合鍵を渡しっぱなしにしていたのは、わざとだった。
ポストに入れておいてもらっても良かったのだけど、そうはしなかった。
鍵が手元に戻ってきて、それで終わりになりそうな気がして、怖かったからだ。
Aには、"彼氏" ができてしまったから。
家路を辿る足を止めずに、素早く返信を打った。
歩きながらだと、左手に下げていたビニール袋が少し邪魔だ。
中にはなんとなく目について買ったファッション雑誌が入っている。
Aからのメッセージを見た時点で、その雑誌を読む気はもう失せていた。
" いつでもええよ "
" 明後日は？ "
" 明後日だとちょい遅くなるかも。明日は？ "
" ごめん、明日は私がダメなんだー "
なんだか嫌な予感がした。
聞かなきゃいいのに、指が勝手に文字を打つ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 253人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えむ(プロフ) - ハンナさん» ハンナさん、いつもありがとうございます！そう言っていただけるとやる気が出ます笑 #2でお待ちしていますね☆ (2021年5月22日 10時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ハンナ(プロフ) - ンフフフ…やっぱりえむさんの書くお話…好きです……たまらんです☆続きが楽しみ…… (2021年5月22日 0時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えむ | 作成日時：2021年5月4日 22時
