. ページ21
.
この状況を意識しているのは俺だけで、Aからはそんな空気は微塵も感じられない。
気分は、離れて暮らす兄の家に泊まりにきた妹。
そんなところだろうか。
「熱いで」
「ありがとう」
テーブルにコーヒーカップを置いて、Aから少し離れた位置に座る。
その距離は、俺のせめてもの抵抗だった。
この空間の中にAがいることに慣れなくて、まるで自分の家じゃないみたい。
外で話すのとは違う会話のトーンに、ついドキドキしてしまう。
密室の中でふたりきりだというだけで、こうも落ち着かないとは。困った。
「急にごめんね」
コーヒーカップを注意深く両手で包み込んでAが言う。
「本に集中しすぎて、降りる駅に気づかなかったの」
「ほんま熱心やなぁ。こないだもなんか読んどったよな」
「勉強はずっと続けないと...人に関わる仕事って、責任重大だから」
子どもは特にね、と優しく笑う。
「やっぱ大変なん？」
「そうだね...でも、大変だから必要なんだと思うし。みんなかわいいしね」
「でもほんま、熱心なんもええけど、気をつけんとあかんで。たまたま俺おったからええけど、泊まりでどっか行っとることもあるし」
「そうだよね。私、ゆずるさんに頼りっぱなしでだめだなぁ」
「それは別にええけどさ」
「大阪も全然知らなかったから、いつも助けてもらってたよね」
大阪に縁があったわけではないのに就職先に選んだのは、エンターテイメントも人のためになる仕事だと思ったから。と前にAは言っていた。
その判断をしてくれたおかげで、俺はAに出会えた。
こんなに好きになるとは、思っていなかったけれど。
「全然、頼ってもらってええから」
「ありがと。でも、もっとしっかりしなきゃ...」
ゆっくりとコーヒーを飲んで溜息をつくAの横顔は、少し疲れているようにも見えた。
今夜は早く寝かせてあげよう。
妙な意識なんてしている場合じゃなかった。
「あ、そうだ」
Aが何か思い出したような顔で俺を見た。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 253人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えむ(プロフ) - ハンナさん» ハンナさん、いつもありがとうございます！そう言っていただけるとやる気が出ます笑 #2でお待ちしていますね☆ (2021年5月22日 10時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ハンナ(プロフ) - ンフフフ…やっぱりえむさんの書くお話…好きです……たまらんです☆続きが楽しみ…… (2021年5月22日 0時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えむ | 作成日時：2021年5月4日 22時
