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Aは賢ちゃんと並んで俺より数歩先を歩いていた。
ビルの窓や、看板のネオン灯、それに走り抜ける車のライト。
夜の街特有の眩しさに照らされるふたりの後ろ姿を、わざとゆっくりと歩きながらぼんやりと眺めた。
頷いたり笑ったりしながら隣を見上げるAの横顔は、今日最初に見たときよりも随分柔らかくなっていた。
「...あ、」
「おっと」
酔いのせいか、暗い夜道のせいか。
Aがつまづいてよろけたところを、賢ちゃんが咄嗟に支えた。
「ちょっと酔うてんなぁ」
「うん...ごめん」
「つかまる？」
賢ちゃんが優しく笑って、Aに左肘を差し出した。
Aはきっとそれを差し返すだろう、と思って見ていた俺の読みを覆して、小さな手がそっと賢ちゃんの肘の内側に回された。
「しばらくこうしてたらええよ」
「うん」
ふたりの距離がぐんと近づくのを、体と体が密着するのを、顔を見て微笑み合うのを、黙って見せられるたまらなさと言ったら。
「あれ、Aんちどっちのほうやったっけ」
連なって走るタクシーの列とAを交互に見て、賢ちゃんが言う。
Aが答えようとしたのを後ろから遮って、賢ちゃんに向かって言った。
「俺ちょっと一軒寄るところあったわ」
「え？今から？」
「賢ちゃん、Aと一緒に乗ったって」
「ええけど...え、どこ行くん？」
「ちょっと、友達がやってるバーに顔出す約束しててん」
それじゃあ俺も、と賢ちゃんが言い出しそうな空気を感じて、間髪入れずに続けた。
「Aまだこっち慣れてへんし、ひとりで帰すの心配やからさ。送ったってよ」
「そやな。わかった」
ふたりがタクシーに乗り込んだのを見届けてから、思い当たるバーに本当に行こうかと少し考えたけれど、結局、目の前に近づいてきたタクシーに乗って帰路についた。
痛い。
苦しい。
つらい。
タクシーの窓の外の暗闇ときらびやかなネオンを茫然と見つめて思う。
俺は今の時間、何をしてたんだっけ？
何でこんなに胸の内側が傷だらけなんだっけ？
ひとりになって、ようやく痛覚が戻ってきたみたいだ。
こんなに傷つくようなことを、苦しくなるようなことを、していたつもりなんてなかったのに。
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えむ(プロフ) - ハンナさん» ハンナさん、いつもありがとうございます！そう言っていただけるとやる気が出ます笑 #2でお待ちしていますね☆ (2021年5月22日 10時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ハンナ(プロフ) - ンフフフ…やっぱりえむさんの書くお話…好きです……たまらんです☆続きが楽しみ…… (2021年5月22日 0時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えむ | 作成日時：2021年5月4日 22時
