遅れた痛み ページ11
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通された部屋には既にAがいて、テーブルの隅っこの席にちょこんと座って本を読んでいた。
「おつかれー」
「あ、おつかれさま！」
俺らが現れて、パッと顔を上げると同時に閉じたその本の表紙には、難しそうな文字が羅列されている。
見慣れなくて、一瞬では理解できないタイトル。おそらく仕事関係の本だろう。
「待たせてごめんなぁ」
「私もさっき着いたとこだから」
Aの視線が、部屋に先に入った俺を、次に後に続いてきた賢ちゃんを辿って、静かに微笑んだ。
その顔にはこないだ俺と会ったときのあの仔犬のような明るさはなく、あるのは、どこか控えめな、緊張気味の微笑み。
そうさせているのは、当然、賢ちゃんだ。
「元気そうやなぁ」
「うん。賢志郎さんも」
賢ちゃんがAの斜め向かいの席に座る様を、Aはじっと見つめていた。
揃ったところを見計らって店員さんが注文を取りにきて、飲み物と料理をいくつか告げた。
今日の最後の仕事が一緒だった俺と賢ちゃんの話をAがうんうんと聞いているうちに、ビールやらサラダやらが次々と運ばれてきて、テーブルの上がいっぱいになった。
「はい、久しぶりー」
「なにその掛け声？」
「ええからええから、はーい」
「お久しぶりでーす」
３つのグラスがテーブルの中心で重なり合って、三角形を成す。
この３人が揃ったということは、追いかけっこがまた始まるんだなぁ、と、ほんの少しうんざりして、流し込むようにビールを飲んだ。
Aに一年会わずにいて、いざ会ったらどうなるのだろうと自分でも疑問だった。
意外と気持ちは落ち着いていて、もう前のように好きと思うこともないのかもしれない、とも当然考えた。
けれど、会ってみてわかった。
そんなことを考えていたことすら忘れるくらいに、一年前と同じすぎて自分でも驚いた。
一年前と、それ以前からの気持ちと、何も変わらない。
むしろ、会えなかった分を埋めようとするように、次々に溢れて止まらない。
やっぱり、あんなキスなんてするんじゃなかった。
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えむ(プロフ) - ハンナさん» ハンナさん、いつもありがとうございます！そう言っていただけるとやる気が出ます笑 #2でお待ちしていますね☆ (2021年5月22日 10時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ハンナ(プロフ) - ンフフフ…やっぱりえむさんの書くお話…好きです……たまらんです☆続きが楽しみ…… (2021年5月22日 0時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えむ | 作成日時：2021年5月4日 22時
