. ページ19
.
「...はい、大丈夫、です」
手を離そうと力を緩めると、リリーさんのほうからぎゅっと握り返されて、離せなくなる。
そのせいで動けなくて、離すように訴えようと見上げたと同時に、
ほんの数秒間だった。
唇に触れるだけのキスをされた。
わけがわからず、ゆっくりと離れていくその顔を見て、時が止まる。
「...好きんなった」
優しく微笑んでそう言われた。
「彼女とも別れてきた」
「...え？」
「マジで考えてくれる？」
考えるって、何を？
言葉はあっさりと耳に入ってくるのに、ただ入ってきただけで、通り抜けていった。
頭の中が真っ白になって、返せるものが何も見つからない。
心臓がどくどくと力強く脈打った。
「俺結婚とか興味ないし、２番目でええから」
その手は、理解できずに戸惑っている私の手を握ったまま。
逃がさない。
そう言われている気がした。
「２番目でええから、彼氏にして」
「...そんなの無理です」
やっとの思いで絞り出した声は、エレベーターが急停止して真っ暗闇になったときより更に震えていた。
やがて安全確認が取れたのか、ドアが静かに開いた。
朝起きて目を開いたときのように目の前が明るく広がって、今立っている場所とビルの中の世界とが繋がった。
もうふたりきりではない。
ドアが開くと同時に、リリーさんに握られていた手の力が一瞬緩められたのを私は見逃さず、躊躇なく振り解いて、ひとりで外へ出た。
「...さよなら」
振り返らずに、前に向かってすたすたと歩き出した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 236人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えむ(プロフ) - ハンナさん» ハンナ様、コメントありがとうございます！甘いかどうか気になっていたので、そう言っていただけて安心しました！#3も楽しんでいただけるようがんばりますね^_^ (2021年4月15日 23時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ハンナ(プロフ) - 甘いー…甘くてステキなお話をいつもありがとうございます… 楽しみで楽しみで終わってほしくない…！です (2021年4月15日 1時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - ゆずさん» ゆず様、いつもありがとうございます！^_^ (2021年4月4日 18時) (レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - あぁどうなるでんしょう…いつもドキドキしながら読ませてもらっています！ (2021年4月3日 15時) (レス) id: f338c2e715 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えむ | 作成日時：2021年3月20日 23時
