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スマホの通話口を下げ、行き先を告げると、年配の運転手が振り返って事務的に頷いた。
たぶん、俺のことを知らないのだろう。
特に反応もなく、「承知しました」とだけ言って、車をゆっくりと発進させる。
そのほうが都合がいい。
バックミラーに映る俺の顔は、Aの声を耳の奥で受け止めて、嬉しそうに綻んでいた。
『ありがとう。疲れてるところ、本当にごめんね』
「別にええよ。帰るだけやったし」
『あ、そうだ...彼女とデートの予定じゃなかった？』
Aの声で "彼女" なんて言われると、胸がチクリと痛む。
「...彼女ちゃうし」
『そっか。好きな人、だもんね』
「そうやで」
『でも、賢志郎さんなら大丈夫だよ。きっと』
大丈夫？
何がやねん、と言いかけて飲み込んだ。
『賢志郎さんが好きになる子ってどんな子なんだろうな。きっとすごく美人で、頭が良くて、性格も良くて...』
「俺のことはええやん」
『なんで？おしえてよ。賢志郎さん、あんまりそういう話してくれないから』
好奇心を持たれていることが、こんなにも苦しくなるなんて。
そういう目では見られていないことは重々わかっているけれど、あまりに明らかすぎて、どうしていいかわからなくなる。
「...その子は、美人っていうよりは、かわいいタイプ」
『そうなんだ』
「感性豊かっていうんかな...素直で、子供みたいなとこあって」
『ふうん。なんか、いいね』
窓の外を覗いてみたけれど、やっぱり月は見えなかった。
三日月が出ていたらいいのにな、と思ったのだけど。
「だから、わかりやすいねん。俺とは絶対うまくいかへん、って」
『えぇ、なんで？』
「俺のことなんて何とも思ってないんよ。だって、その子は...」
既に決まった相手がいる、だなんて、痛い奴と思われそうで、それ以上は言えなかった。
架空だったはずの "好きな人" に、いつのまにかAを重ねていることに気づいて、つらくなった。
Aへの想いを振り切るための嘘だったのに、結局その想いに縛られてしまう、馬鹿な自分に嫌気がさす。
いっそ伝えて、木っ端微塵に砕けてしまえばいいのかもしれない。
どうせ答えはわかっている。これ以上傷つくことなんて、ない。
でも...想いを成仏させるためだけの告白は、ありなのだろうか。
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えむ(プロフ) - ゆずさん» いつもありがとう☆コメント嬉しいです^_^ (2021年10月10日 23時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - HanNAさん» いつもありがとう☆今回も楽しんでもらえるように頑張りまーす！ (2021年10月10日 23時) (レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - これからの展開にドキドキします！楽しみです( ´∀｀) (2021年10月9日 21時) (レス) @page16 id: f338c2e715 (このIDを非表示/違反報告)
HanNA(プロフ) - お疲れ様ですー☆ やっぱりえむちゃんすごい…です…読んでいてバクバクする！これから楽しみです！ (2021年10月9日 1時) (レス) @page16 id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えむ | 作成日時：2021年10月2日 23時
