20212022 / かわにし ページ23
.
あと10分。
10分で今年が終わっちゃう。
TVでは賑やかな笑い声や音楽や光が、色トリドリで。
「あは、この人おもしろいなー...」
独り言をつぶやきながら、ぬるくなったホットココアを飲んだ。
口の中の甘さと、胸の中に空いたぽっかりとした空洞が、見事なコントラストを描いている。
日付はまもなく、今年から、来年へ。
そんな一大イベントを、今年も私は、たったひとりきりで迎える。
「年越しを一緒に」という願いは、叶ってほしいような、ほしくないような、複雑なもの。
こういうときに仕事をもらえるのは幸せなことだ、と、年末が近づくと賢ちゃんはいつも言っていた。
だから、私もそうなのだと思う。
離れ離れが、幸せな証拠。
賢ちゃんがそれでいいのなら、私もそれでいいのだ。
♫〜
スマホが着信を告げる。
画面には "賢ちゃん" の文字。
「もしもーし」
『あー、起きてたー？』
「うん」
『何してたん？』
「TV見てた」
この時間は生放送中のはずだから、電話があるなんて思ってもみなかった。
声の後ろがなんとなくザワザワしている。
休憩中だろうか。
「大丈夫なの？」
『うん。今CM入ったとこやから』
「え、まずくない？」
声を聞けて嬉しいと思うよりも先に、焦って口から出た言葉がそれだった。
「早く戻ったほうがいいよ」
『なに、つめたぁ』
「え、ごめん」
『俺ずっとそわそわしてたんやで？年が変わる前に電話するチャンスあるよなぁ、って。今年最後にちょっとでもAと話したいなぁ、って...』
拗ねたような声に、驚いた。
賢ちゃんがそんなことを気にしてくれていたとは。
「ごめんね。生放送でバタバタしてるだろうから、電話なんてしてる場合じゃないと思って...」
『わかってる。冷たいいうのは冗談』
ふふっ、と、耳元の声が笑う。
優しい顔が見えるようで、私もつられて笑った。
『...あ、呼ばれた』
「あ、うん」
慌ただしい雰囲気を、スマホ越しに感じた。
「電話ありがとね」
『A、』
「はい？」
『毎年こんなんでごめんやけどさ。来年も懲りずによろしくお願いします』
「こちらこそ」
『年明けたら言いたいこともあるし...』
「え？」
聞き返す私に、「まあええわ」と笑う。
『寝ててええからな』
(...幸せ)
仕事が終わったらすぐにこの部屋へ来てくれるのも、毎年のこと。
だから寂しくなんか、ないのだ。
fin.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 283人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えむ(プロフ) - HanNAさん» こちらこそいつもありがとう☆また来年もよろしくです！！ (2021年12月31日 8時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
HanNA(プロフ) - えむちゃん、いつも素敵なお話ありがとうございます！よいお年をお迎えくださいー (2021年12月29日 1時) (レス) @page26 id: ea9d2e9102 (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - みかみかさん» コメントありがとうございます☆あー、良かったですー。喜んでいただけて、ほっとしました^_^ いろいろ想像しながら書くのが楽しかったです☆こちらこそ良い機会をありがとうございました。是非またどうぞです☆ (2021年11月6日 20時) (レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
みかみか - 早速読ませていただきました！！もう最高でした！キュンどころじゃないですズッキュン心ぶち抜かれました（笑）えむさんの言葉選びほんとに好きです！素敵なお話ありがとうございました(T▽T) (2021年11月6日 6時) (レス) id: b0f25e0f76 (このIDを非表示/違反報告)
みかみか - えむさん» はい！もちろんゆっくりで大丈夫です！読んだ後感想も書かせて頂きます！素敵な作品お待ちしてます！ (2021年11月1日 23時) (レス) id: b0f25e0f76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えむ | 作成日時：2021年9月19日 22時
