. ページ14
.
「そやんなぁ、よかった」
「今度お店に来たらちゃんと言うつもり」
「うん、俺もそうするわ」
安心したせいか、急にお腹がすいてきた。
真似するようにぱくぱく、手と口を動かして、目の前の皿をきれいにしていく。
Aの淹れるコーヒーは、キッチンの棚に豆が何種類もストックしてあって、いつも違う味がする。
それだけでも楽しく思わせてくれる、さりげない気遣いが嬉しかった。
ふと壁にかかった時計に目をやると、そうゆっくりもしていられない時間になっていた。
「そろそろ準備せんと」
最後の一口を口に放り込んで、席を立った。
寝室へ戻って着替えて、寝起きの髪をそれなりに整えて、バッグの中身を確認して。
リビングに戻ると、テーブルの上がきれいに片づけられていた。
Aはキッチンで洗い物をしている。
「先に出るな」
声をかけると、Aはタオルで手を拭いて、パタパタとキッチンから出てきた。
そのまま見送られる形で玄関へ行く。
靴を履いて、ふと振り返ると、どこか寂しげな表情でAが立っていた。
本当はもう少し、何か言い足りなかった？
俺には一人で考えすぎるところがあると指摘するくせに、自分だって言葉を飲み込む癖があることに気づいていない。
きっと追及したって、知らんぷりして、平気そうに笑うのだろう。
嘘をつけないその性格だから、すぐに顔に出てしまっていることも知らずに。
「...A、」
両手を広げて「おいで」の合図を送る。
Aは素直に足を踏み出して、俺の胸の中に体を委ねた。
ぎゅっとハグして、髪を撫でてやる。
「愛してるで」
「うん...今日は一緒に寝れる？」
「なるべく早く帰ってくるわ」
Aの腕が俺の背中を抱いてきて、ふたり分の体温で体があたたかくなる。
距離感ゼロで、まるで一心同体みたい。
こういうのもまた、新婚さんの醍醐味なんかな。
なんて思って一人で照れて、そっと離れた。
「...行ってきます」
「気をつけてね」
手を振り合い、名残惜しさでいっぱいの胸を抑えて、玄関を出た。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 273人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えむ(プロフ) - ゆずさん» ゆず様、ありがとうございます☆また遊びに来てくださいね。よろしくお願いします^_^ (2021年3月19日 21時) (
レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - 毎回楽しく読ませて頂きました！#2も楽しみにしていますね！ (2021年3月19日 10時) (レス) id: f338c2e715 (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - ゆずさん» ゆず様、コメント嬉しいです！ありがとうございます！ (2021年3月8日 23時) (レス) id: 811416b436 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - 毎回楽しみに読ませてもらっています。これからどうなるか…楽しみです^_^ (2021年3月8日 17時) (レス) id: f338c2e715 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えむ | 作成日時：2021年2月28日 21時
