Sleeping Beast【桃】

２◆ ”SAKUMA”という男。 ページ4

ふぁ、と何度目か分からない欠伸を噛み締めながら満員電車に揺られる。
吊革に掴まって、リュックを身体の前で抱っこしてカクンッと眠気に負けてふらつけば、前に居た女子高生がビクッと不安げな顔をして振り返った。
＿＿＿＿痴漢なんてしないよ。
俺、女の子に触れても興奮しないもん。そういう行為をしようとして自分の意思で興奮させることはできるけどさ。
自意識過剰だね、なんて言いたいけど、それだけ危機感持つことはいいことだよ。

だってね、こんな普通の日常風景に俺のような殺人犯が普通に紛れ込んでる……なんて君たちは知らないでしょ。
今ここで君の首をシュパッて切って殺すことだって不可能じゃない。いつでもどこでも命の危機を感じていた方がいい。
どこに善人の顔をしたサイコパスが潜んでいるか分からないんだから＿＿＿＿＿＿











「佐久間くん！ これ今朝の会議で使うって言ってたのにまだなの？」
「あっ！ 忘れて……あ、いえいえ、今すぐやりまーす！！」


会社についてすぐに怒られる俺、佐久間大介はじぃちゃんばぁちゃんのおかげで大学まで行かせてもらって、なんとなく受けたこの会社に入社をして数年。出世することなく、平凡に生きている。
パソコンを立ち上げてカチカチと作業を始める俺は猫背の目立たない何処にでも居るような男で、でも他と違うことがひとつ。

＿＿＿ポチッとな。送信。
なんとか会議には間に合った。昨日ちょっと殺しというか、ターゲットを刑務所から出すのに時間を使いすぎて昼間の仕事が出来なかったんだよね。
こんなだから俺は出世できないんだろうけど、する気もないんだけどさ。



「また朝からガミガミ怒られてたよ佐久間さん」
「あの先輩この前彼氏と別れたっぽいからずっとイライラしてんのよね。当たってるんだよあれ彼怒らないから」
「ええ、八つ当たり？ 酷くない。ほら彼って例の事件の少年なんでしょ？ あんな事件経験してたら感情欠落するよね」


給湯室って女子社員のお喋りの場になりやすい。そこで噂話するのは別に構わないけど、俺の話題をするなら気をつけな。
持たれていた壁を軽く蹴り勢いをつけて給湯室に入ると、彼女達はあからさまにマズいと顔に貼り付けてアタフタめく。


「さ、佐久間さん、」
「あはっ、すみません。会議室にお茶お願いできますか？」
「あ、ああええ！ 持っていきますね！」
「はーい、お願いしまーす」

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