Sleeping Beast【桃】

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ロープで腕と足を縛られてるから男は俺が切り裂いた口を押さえることができずに、痛みに狂ったように呻いていた。


「あ”ーっあ”ーっ」
「痛いねぇ。お前が好きなその女の子の母ちゃんとばあちゃんも痛かったんだろうね。だってお前、何ヶ所刺してんのよって」
「ふがっ、あががっ」

口の周りの皮膚がベロンとなってて、そこから血が溢れてるもんだから何を言ってるか分からない。
だからやっさしー俺は代わりに代弁してあげんの。


「え、覚えてないって？ そっかー。精神不安定だったんだもんね。じゃあ、」
「うぎゃあああっ」


グサッと、太腿を刺してあげた。
抜いては刺して、抜いては刺して。抜くたんびにぴゅーって血が飛び出てくんのちょーおもしろーい！水鉄砲みたい。中身真っ赤な血ってところはグ ロいけど、にゃは！


「ほらほら思い出してきた？ こうやって背中とかお腹とか刺してたよね？ 痛いよね？ 助けてほしいよね？」
「ぬぐっ、げて……ごへ、な…じゃぃ、あがっ」
「……別に俺は謝ってもらわなくていいよ。俺はお前のこと恨んでねえもん」
「はへ……ごほっ……っ」

痛みと出血の限界かな。威勢の良さがなくなってしまっては痛めつける面白みはもうない。
男から離れて、俺はスマホの録画機能を停止した。
後でこれを依頼人に送らなきゃいけない。相手はとことん痛めつけてやってほしい、と送ってきた。
ちらりと、男を見ればもう意識はぶっ飛びそう。
刑務所から奴を連れ出すだけでも色々手を回して大変だったから、もう少し耐えてほしかったってのが本音だけど。
気絶した奴を殺るってのはなんか好きじゃないから、生きてる今とどめを刺す。それが俺のやり方ね。


「じゃあ、そろそろバイバイしよっかー」
「うっ……ふぁ……」


人間本当に恐怖して死ぬ間際、どれだけ虚勢を張っていても、どんなけ強面の大人でも生まれた頃の子供に戻るんだ。
助けて、助けて、ママって。


「大丈夫、次痛みを感じた時は直ぐにあの世に逝ってるよ。バイバイ」



とどめは一瞬。急所を狙って。それが依頼を受けた俺が最後にしてやれることかなって。
うはー、俺やっぱりやっさしー人間っぽくない？
ああでも、まただわ。またこの胸にぽっかりと穴が空いたような、空いた穴に風がビュービュー吹き抜けていくような。







「虚しいね……帰ろ」

◆→←１◆ ”エス”という男。

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