フルーツタルト ページ10
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｢湧くんあのねあのね！｣
｢湧くん〜！ぎゅー！！｣
｢湧くん待って〜！｣
どう見ても湧に懐いてるこの子はうちの紅一点ちゃん。
2歳年上の湧に1番懐いてる。あと俺の同期。
湧も頼られるのが嬉しいのかめちゃくちゃかわいがってる。
でも、この子は本気で湧に恋をしていて、
湧のために伸ばしてる艶のある綺麗な髪にいつも爪がピカピカな綺麗な手。少し背伸びした綺麗めなタイトの服にふんわり香る女の子らしい香り。
好きな人のために努力する女の子がいちばん可愛いなんて言うけど本当にそうだと思う。
｢ねね！光輝今日も湧くんかっこいい！！！｣
なんて俺の膝の上で熱弁する彼女は俺の事どう見てるんだろう。
恐らくただの同期で、良くても親友だ。
｢よかったじゃん、今日は湧と帰んの？｣
｢湧くん今日は帰れないんだってー、だから光輝と帰るね！｣
久しぶりに横に並んで駅までの道を歩く。
寒くなってきた季節を彩る電飾。このまま俺たちさえも包み込んでくれたらいいのになんてね。
｢あと1週間でクリスマスだねー！湧くん空いてるかなー？｣
なんてわくわくしてる湧が大好きな子。
俺はAと過ごしたいなんて決して言えない。
だって、Aには幸せになって欲しいから。
湧もきっとかわいいAが好きで、クリスマスは2人でもっと綺麗なイルミネーションを見るんだろうな。
同じ方面の俺たちだから同じホームで電車を待つ。
無言の時間が続く。でも決して心地悪いことはなくて無言の時間さえも愛おしい。
｢え、｣
静かにもらしたAの視線を辿れば湧が金髪ショートカットの女の子と腕を組んでいる。
咄嗟にAの手を引いて抱きしめて。もう見ないでくれって。
湧はうざいくらい鈍感だよ。
ふつふつと沸き上がる苛立ちは腕の中にいるAのすすり泣く声を聞いて静かに蓋をした。
｢A大丈夫、だいじょうぶだから、俺がいるから｣
なんにも大丈夫じゃない、でも自分にも言い聞かせないとおかしくなりそうだった。
あと少しだけ、Aが消えてしまいそうなそんな気がしたから。
お願いだから俺の前からは消えないで。
・.
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作者名：にゃん | 作成日時：2023年4月5日 22時
