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｢むりー、行きたくない、湧くん代わりに行ってよ｣
｢無理だよできないよ、話聞いてあげることしかできない笑｣
｢湧くんに会えるのにまた来週じゃん｣
｢金曜も火曜もいるよなんなら今週土曜も入ってるよ｣
｢むりー、｣
って完全に机に伏せて酔っぱらいのAちゃん。さすがにいつもは帰れるほど飲んでちゃんと自分で帰っていくからイレギュラーなことが起きてびっくりする。
かと言って俺はまだ仕事がある。
｢もうAちゃんーどうするの？タクシー呼ぼうか？｣
｢すまほ｣
なんて言うからAちゃんの椅子にかかったコートからスマホを取り出す。いつも電子決済でここに入れてること知っててよかった。
｢はいどーぞ｣
｢湧くん1126｣
1126馴染みのある数字をタップすればロックが解除される。
｢え、なんでこの数字なの｣
｢わたしのたんじょーび｣
｢え｣
誕生日一緒だし、てか普通に誕生日パスワードにするの危ないだろと思いつつもきっとこの酔っぱらいには伝わらない。
｢ほらどーすんの、あとは自分でできる？｣
てか普通にこの状況やばいだろ、彼氏でも友達でもない常連さんのスマホを俺がもってるの。脳内を整理して携帯をAちゃんに渡せば｢いまむりー｣なんて伸びた声。
あー、もう知らないからなと思いつつ。
電話を開けばすぐに目にはいってくるりゅうせい。え、男だよな。Aちゃんの履歴にはこの男の人の名前しかない。
｢なに、このりゅうせいってひとにかけたらいいの？｣
｢んー、そう｣
軽くこぼしたため息をついてから押した名前。まだワンコールの途中にぷちっと変わった音質。
｢はい、なーにAちゃん｣
｢あ、すみません｣
｢え、誰っすか？｣
そりゃそうなるよなと思いつつ経緯を話せば｢まじすか！ごめんなさい！すぐ行きます！｣って焦った声と場所を伝えれば｢10分ほどで行きます！｣とだけ伝えられて切られた電話。
｢Aちゃん、りゅうせいってひと来てくれるってよ、｣
｢ん｣
｢あれ彼氏？｣
｢どうだと思う？｣
もうほんとこいつと話すと気が狂う。
｢彼氏いたんだって思うよ。｣
｢会社の後輩だよ、りゅうせい｣
それだけ言って完全に夢の中におちていったAちゃん。
後輩なだけだったらあんな着信履歴がうまるほど電話する？
と思いつつ、俺はただの店員だからとAちゃんの肩にコートをかけた。
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作者名：にゃん | 作成日時：2023年4月5日 22時
