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あのあと泣きじゃくるAを電車には乗せることなんてできなくてホームを出た。タクシーを捕まえて、1人になりたいという彼女に
意気地無しの俺は首を縦に振るしかなくて彼女の家に送り届けた。
次の日、家を出る前に送った
『レッスン来れそう？』
は既読の文字がつくことは無かった。
心配だったけれど変にいつもと違う行動をとるのはなんとなく違う気がした。
｢おはようございまーす｣
｢お！黒ちゃんはよ！｣
なんて昨日俺たちを変えた本人はいつも通りで、
レッスン室をぐるっと見渡せば既に踊ってる困った子。
｢あー、なんかあいつ1番に来てずっと練習してるらしい｣
って少し眉を下げて心配そうな眼差しの湧に手が出そうだったけど鏡越しに見えたあいつの顔に手を出すことなんてできなかった。
｢A｣
｢あっ、光輝おはよう｣
こちらを見たAの目は帽子を深く被っていて遠くからは気づかなかったけど明らかにいつもより腫れていて、
心が苦しくなった。
帽子を少しあげてあげて、頬に手を伸ばせば、すぐに外れた涙の蓋。
もうこの子は限界なんだ。
昨日と同じように泣きじゃくる彼女の泣き顔を俺は誰にも見せたくなくて自分の胸に頭を抱え込んだ。
｢黒ちゃんだいじょうぶか？Aどした？｣
Aの頭にのりかけた湧の手を俺は無意識に振り払った。
｢え、｣
｢湧もうAに優しくすんな、｣
それだけを伝えて彼女の手を強引に引いてレッスン室を出た。
廊下の奥まで進んで止まると後ろから抱きつかれる感覚。
｢A、｣
｢好きだったなあっ、好きじゃないなら優しくしないでよねっ
勝手に期待した私が…馬鹿みたいっ。
湧くんからしたら私は妹だったのかな、っ。｣
あー、俺が守らなかったからこんなことになったんだ。
俺が守ってやれなかったから。じゃあ今やるべきことは。
｢俺は好きな子にしか優しくしない。俺は好きじゃない子を
抱きしめなんてしないし、涙なんて拭いてあげないよ｣
くどいかもしれない。それでももう俺が守りたかったんだ。
自らの手で。Aの涙を拭った手で。ずっとずっと。
｢光輝だめだよ、湧くんしか私はいないの、心に｣
｢ううん、いい。それでいいから、絶対俺がAの心から湧を消してあげるから。だから、
Aを好きでいさせて欲しいんだ。守りたい。｣
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作者名：にゃん | 作成日時：2023年4月5日 22時
