私は師匠に退かない【HUNTER × HUNTER】

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「さぁ、来なよ。」

(…！)
(…空気が)
(変わった！)

ゴンとキルアは肌でそれを感じ取ると反射的に顔を見合わせた。バチバチと炎で炙られる様な殺気…いや、これは闘志とでも言うべきか。

試合は終盤。両者共に肺に穴が空き、片目が見えないボロ雑巾の状態。しかし二人のオーラは圧倒的な強者のものだ。

そう易々と超えられる領域じゃない。知っていた事だけど、改めて身に染みる。

「やっぱり…強いね。」
「…だな。」

＊

嗚呼、ルビーを纏うキミの美しさには誰も敵いはしない。

冷静に彼女の念を分析する頭の片隅で、惚気た感情がぽつりと顔を出した。そんな彼女の唯一が、このボク。全く、男冥利に尽きる。

ふらりと縺れたように駆け出す、ルビーを纏った少女。その姿を見てヒソカはスッカリ惚けていた。

集中していなかった訳では無い。当たり前だ。男の意識は今、少女にしか向いていない。

その筈なのに、気がついた時には、少女は眼前まで迫っていた。

(…？)

飛んできた拳をパシンと受け止めながらも、ヒソカは疑問に思った。ほんの些細な、奇妙な違和感。

いつもの規則正しい呼吸がズレ始め、いつものタイミングとほんの少し、違う。

「！」

急に現れた少女の小さな膝にギリギリで反応する。

カストロ戦とは似て非なる違和感。これはそう、あの時よりもっと単純だ。

「…素早くなったね？」

少女からの返事は無い。しかしそのニヤリとした笑みは肯定を意味していた。

＊

『ゾーン』とは、端的に言えば『超集中状態』を指す。少女の今の状態は、そう例えるのが一番正しい。

その状態に入った少女は
少し目が良くなり
少し身体が軽くなり
少し触覚が鋭くなり
少し『流』が普段よりなだらかになる。

その『少し』である謙虚さと、『全て』を向上させる貪欲さ。

発動条件は、『一定量の失血』。

＊

『クリーンヒット！1ポイントA！！』
『A選手渾身の蹴りが決まったァ！！！現在の点数は8対7！！ただ今A選手が連続ポイント！ヒソカ選手逃げ切れるのかーっ！？』

会場のボルテージは最高潮だ。

観客は酒を浴び、下品に醜く声を張り上げる。かつてない勝負。少女を忌み嫌っていた者達も、次は何をしでかすのかと待ちわびている。

熱い実況。飛び交う罵声と応援に混じった、不潔な唾と汗。

相手は念願の、唯一の人。

少女は初めて、この空間が嫌いじゃないと思えた。

血が滾り、興奮が冷めない。

続きをやろう。はやく



「ギブアップだ」

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