私は師匠に退かない【HUNTER × HUNTER】

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「無償で手当をしてくれる献身さも、怪我人に配慮した胃に優しいご飯も、この傷を自分の事のように心配する気遣いも」

「…いらない。」

肌が焦げ付く程の光。少女がこの家に来て感じた物はそれだった。その善意は全て、少女にとっての毒に等しい。

「…逃げないから、構わないで欲しい。押し付けないで欲しい。」
「…どうすれば良いのか、わからないから。」

少女は決して涙を見せなかった。しかしその声は震えている。自分には理解し難い葛藤が彼女の中で起きている事が、なんとなく、ゴンにも伝わった。

生きてきた環境が違う。確かにそうだ。目の前の彼女の話だけでは想像も出来ない血なまぐさい光景は、オレが見てきたものとは比べ物にならない程に凄惨で、残酷なのだろう。

でも、だけど、だからといって、
Aが進んで恨みを買う人間には到底思えない。

「Aはさ…リチギ？真面目？だよね。」
「…は」
「だってそうじゃん。オレたちが求めてる訳じゃないのに、ちゃんと借りを返そうとしてる。頑固だなぁって思うよ。」
「なっ…がん…」
「Aは自分が悪い人間みたいに言ってるけど、オレはそう思わないなぁ。」
「はじめから借りを返そうとしない人だって居るし、なんならある程度回復してからオレたち全員殺して、家の物盗んで行くような人だって…多分この世には居る。」

そう言ってのけた表情には妙な説得力があった。自分の人生がそうであったように、彼の人生にだって後悔や苦悩は少なからずあるにちがいない。

「でもAはしないでしょ。それがどれだけ酷いことか、ちゃんとわかってるから。」
「…わかんないよ。窮屈さに耐えきれなくて、やっちゃうかも。」
「やらないよ。根拠はないけどね。Aだってそういう曲がったことは嫌いでしょ？」
「…きらい、だけど。」
「ほらね。」

得意げに笑って、ゴンはベッドで胡座をかく。困り顔の少女を真っ直ぐ見て、談笑する様に声をかけた。

「オレさ、Aに今必要なのは“休み”だと思うな。」
「Aは今までずっと頑張ってきたでしょ？なら、ちょっとくらい休んだってバチなんか当たらないよ。」
「休む事なら任せてよ！オレ、それに関しては誰にも負ける気しないよ！」
「…あっそ。」
「あ！でも、Aの事も教えて欲しいな。楽しかった事とか、好きな事とか！」
「…はいはい。」

「…期待してるね。」

少女の強ばった表情は、少しだけほぐれたような気がした。

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