私は師匠に退かない【HUNTER × HUNTER】

酸いも甘いも ページ17

「あら、キルア。マリネは食べないの？」

楽しく食事をする中、ミトはキルアが手をつけていない料理がある事に気づく。

「あー…はは、オレパプリカと生玉ねぎ苦手で…」
「食べられない訳じゃないのね？なら食べてみて頂戴。甘酸っぱく味付けしてあるの。食わず嫌いはよくないわ。」
「ミトさんの作ったマリネ美味しいんだよ！」
「キルアは血糖値やばそうだから玉ねぎくらい食べた方がいいよ。」
「やばくねぇよ！」

いややばいだろ。と少女は天空闘技場でのキルアの偏食ぶりを思い返す。一緒に食事をする度に決まって甘い物を頼む姿に何度顔を顰めたことか。いくら天下のゾルディック家であろうとも糖尿病は防ぎきれまい。

「ほらキルア。」
「う…ぐ…」

赤と黄と白のそれを持ち上げては嫌な顔をする。作った人が目の前に居るというのに失礼なやつだ。当のミトは気に止めていないようだが。

「野菜だけで食べようとするからじゃない？魚と一緒に食べたら美味しいよ。」
(んなので変わるわけねーだろ…)
「おい、そんなので変わるわけないだろって顔すんな。」
「ゔっ」

全部見透かされている。これでは最終奥義『息を止めて食べる』を実行してもバレてしまうだろう。

意を決したようにキルアは魚と野菜を口に運んだ。

ゆっくりと咀嚼する姿を友人二人はじっと見守る。貴重な姿を見逃すまいとする二人に、そんなに珍しい事なのかしらとミトはクスッと笑った。

「…どう？」
「…」
「…意外と、いける。」

難しい顔で噛み締めたかと思えば、ぱっと目を丸くさせてキルアは呟いた。なんだ、意外とウマイ。玉ねぎは辛くないし、微妙でいや〜な甘さがしてた印象のパプリカもなんていうか、全然いやじゃない。ピーマンの苦味より全然マシ。

甘酸っぱいおかずって苦手だった気がするんだけどなぁ。魚の塩気のお陰か？

「…んま」
「でしょ〜？ほーら、食わず嫌いじゃん。」
「うるせーなぁ。前までは苦手だったんだよ。」
「じゃあ苦手克服だね！」
「…あ〜もう！ハイハイ！」

からかわれて腹が立つ…というよりはむず痒い。でも新たな発見は嫌じゃなかった。『食べたくない』が『あったら食べる』になったのは、キルアにとって大きな事のように思える。

キルアはズズ…とスープを飲んでから、進んで料理に手を付けた。

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