▷三十六言目 ページ36
さっきまでの自信はどこへやら。
思っていたよりも沈黙が長く続いて、あれ、ダメだったかなと不安になり始めた時、前から控えめな笑い声が聞こえてきた。
口元に手を当てて肩を震わせている剣持くん。
前髪の隙間から悪戯っぽい目が覗いて、かあっと頬が熱くなった。
「んふ、そんなに不安そうな顔しなくても。あははっ。」
「っ、だ、だって剣持くん何も言わないから…!」
「僕が断るわけないじゃないですか。」
は、と気の抜けた声が出た。
どこにしまったかな、と自分の鞄を漁っている剣持くんをただぼーっと見つめる。
「あ、ありましたありました。じゃあはい、交換しましょう。」
「……あ、ありがと…。」
右端に書かれた『剣持』の文字に胸の奥がむずむずする。
これ、私が巻くのか。
結んだら誰も気付かないような小さな文字なのに、胸が高鳴って仕方がない。
待って、剣持くんは安達って名前が書かれたハチマキ巻くんだ…。
なん…なにそれ…うわぁ……。
謎の優越感を覚えて身体が火照り、指先がじんわりと温かくなった。
気を抜いたら緩んでしまいそうな口元を隠すために俯いて、にやけそうなのを必死に抑える。
「……うーん!僕、明日すごく頑張れそうです。」
「…私も。」
冗談っぽくそう言って、照れたように眉を下げて笑う剣持くんに私もぎこちなく笑顔を返した。
なんとなく二人で帰る流れになって、もう日が落ちて暗い道を並んで歩く。
歩くとき自然に剣持くんの隣に並べるようになったのも、小さいことかもしれないけれど、私の中では大きな進歩だ。
「あ。」
「…?なにかあった?」
「いえ。ただちょっと小腹が空いたなって。」
「練習大詰めで大変だったもんね。そこのコンビニ寄る?」
「それじゃあちょっといいですか?」
「いいよ。私も何か買っちゃお。」
レジ横にあるホットショーケースの商品、部活帰りはつい買っちゃうんですよね〜、と笑う剣持くんに同調しながら、コンビニに入る。
「お?」
「なになに?…おぉ?」
「……。」
「……。」
部活帰りだと思われるクラスメイト数名と目が合った。
そのまま何も言わず、剣持くんと二人、Uターンして店を出る。
「…………絶対これ明日何か言われますね。」
「はは…。」
______…ため息を吐きつつも嫌じゃなさそうなのは、私の気のせいかな。
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せそ(プロフ) - むーさん» コメントありがとうございます!試行錯誤しながら書いてたのでそう言っていただけると安心します…!嬉しいです!神作と言っていただけたのが過言にならないように頑張りますね!? (2022年7月18日 18時) (レス) id: f1e07720ab (このIDを非表示/違反報告)
せそ(プロフ) - 199594198593さん» コメントありがとうございます!おかえりなさい!!(?)最高嬉しいです〜最高を書き続けられるように頑張りたいですね… (2022年7月18日 18時) (レス) id: f1e07720ab (このIDを非表示/違反報告)
むー(プロフ) - ふへ…ふへへ…(キショ)すごい好きです…!knmtの解釈一致すぎてもう最高です、神作をありがとうございます…!!! (2022年7月13日 22時) (レス) @page48 id: c6860a711c (このIDを非表示/違反報告)
199594198593(プロフ) - 番外編まで最高だァ… (2022年7月12日 9時) (レス) @page48 id: d656d21813 (このIDを非表示/違反報告)
せそ(プロフ) - ミウラさん» コメントありがとうございます!大好き嬉しいです〜!番外編まで読んでくださってありがとうございます!あと数話お付き合いください💖 (2022年7月4日 0時) (レス) id: f1e07720ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せそ | 作成日時:2022年4月12日 18時