▷三十言目 ページ30
挨拶をしてくれるクラスメイトに笑顔で挨拶を返しつつも、頭の中は昨日のことでいっぱいだった。
結局私がお風呂を上がったあともお母さんのマシンガントークは止まらず、小さくくしゃみをしてやっと剣持くんはお風呂場に送り出された。
剣持くんがお風呂を上がったあともお母さんは話し足りないようで、絶対また来てねと次の約束を半ば無理矢理取り付けていたし。
これもう娘の私より親しくなったまである。
お母さんには一生勝てないなと思った。
…………ここまではいい。問題はその後、見送りのとき。
そこまで考えて、ごちゃごちゃしている頭を整理するために深呼吸をした。
私は駅まで送っていくと言ったのだが「気持ちは嬉しいですが、もう夜も遅いし女の子を帰り一人で歩かせるわけにはいきません。」とやんわり拒否され、せめてそこの角までと二人で歩いた。
その時の剣持くんの言葉。
『僕も安達さんも、もうちょっとお互いに期待してもいいと思うんですけどね。』
意味が分からず変な顔をしていたであろう私を見て小さく笑った後、剣持くんは私の手にするりと指を絡めた。
それに対して何かを言う前にすぐ離れた手。
羞恥と混乱とで呆然とする私を残して「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました。」と歩いて行った剣持くんの耳は、少し赤かった気がする。
「……んあー、わからん…。」
「何がわからないんですか?」
「っひ!?」
独り言として消えるはずだった言葉が拾われて、しかも目の前に今まさに考えていた剣持くんが現れて仰け反った。
機嫌良さげにあははと笑って、剣持くんが机の上に通学鞄を下ろす。
「おはようございます。驚かせちゃいましたね、すみません。随分考え込んでたようですけど。」
「おはよう。いやー…ちょっとね…。」
「……もしかして昨日のことですか?」
昨日、という単語に思わず固まる。
私の反応を見て小さく「やっぱり。」と呟いた後、口角を上げる剣持くん。
悪戯が成功した時の子供のような顔。あまり見ることのない表情に心臓が跳ねた。
「じゃあ、そのまま考えててください。」
「えっ。教えてくれないの?」
「教えませんよ。自分で考えてください。」
剣持くんはそれ以上何も言わず席に着いてしまった。
……いつも余裕だ、この人は。
私はお母さんだけじゃなくて剣持くんにも一生勝てないんだろうなと思った。
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せそ(プロフ) - むーさん» コメントありがとうございます!試行錯誤しながら書いてたのでそう言っていただけると安心します…!嬉しいです!神作と言っていただけたのが過言にならないように頑張りますね!? (2022年7月18日 18時) (レス) id: f1e07720ab (このIDを非表示/違反報告)
せそ(プロフ) - 199594198593さん» コメントありがとうございます!おかえりなさい!!(?)最高嬉しいです〜最高を書き続けられるように頑張りたいですね… (2022年7月18日 18時) (レス) id: f1e07720ab (このIDを非表示/違反報告)
むー(プロフ) - ふへ…ふへへ…(キショ)すごい好きです…!knmtの解釈一致すぎてもう最高です、神作をありがとうございます…!!! (2022年7月13日 22時) (レス) @page48 id: c6860a711c (このIDを非表示/違反報告)
199594198593(プロフ) - 番外編まで最高だァ… (2022年7月12日 9時) (レス) @page48 id: d656d21813 (このIDを非表示/違反報告)
せそ(プロフ) - ミウラさん» コメントありがとうございます!大好き嬉しいです〜!番外編まで読んでくださってありがとうございます!あと数話お付き合いください💖 (2022年7月4日 0時) (レス) id: f1e07720ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せそ | 作成日時:2022年4月12日 18時