早く言えよ！【knmc】

▷二十四言目 ページ24

　


　
耳がキンとした後、外の音を何も拾えなくなった。


耳の血管なのか、心臓の音が響いてきているのかわからないけど、耳の近くでドクンドクンと大きく音がする。


じっとこちらの出方を伺うように見つめてくる双眸から目を逸らすことも出来ずに、また何かを言えるわけもなく、ただただ惚けたように見つめ続けた。


　
しばらく見つめ合ってからスッと細められた目に、一際大きく心臓が跳ねる。


飲み込まれそうになる雰囲気の中、剣持くんがゆっくりと口を開いた。


　


「_______……。」


「お待たせ致しました、こちらケチャップオムライスです。」


　


カチャリと音を立てて目の前に置かれたお皿に、ハッと意識がクリアになった。


やばい…。なんか、圧倒されてた……。


強く握りしめすぎて冷たくなった手を机の下で開いて、剣持くんの様子を伺う。


少し遅れて剣持くんの前にもお皿が運ばれてきて、それを受け取りお礼を言っている剣持くんの様子は普通だ。

さっきまでの威圧感が嘘のように、いつもの柔らかい雰囲気の剣持くんに戻っている。


ふと、剣持くんと剣道で対戦する相手はあんな感じになるのかなと思った。


　


「オムライス、美味しそうですね。」


「う、うん。スープもサラダも美味しそう。」


「じゃあ温かいうちに食べちゃいましょうか。いただきます。」


「いただきます。」


　


しっかりと手を合わせていただきますを言う剣持くん。姿勢もいいし、育ちが良いんだと思う。

あ、姿勢がいいのは剣道やってるのもあるのかな。
　


映画の時みたいに剣持くんばかりに意識を向けて集中できないのは嫌なので、先程のことはひとまず忘れることにした。


綺麗に包まれたオムライスの端にスプーンを入れて、口に運ぶ。


　


「……！」


「……美味しいですねこれ…。正直、想像以上…。」


「ね！ほんとに！」


　


わかりやすくテンションを上げてしまう私とは対照的に、剣持くんは落ち着いていた。

多分、本当に感動した時は静かになるタイプだ。映画の時もそんな感じだったし。


私子供っぽいなと少し恥ずかしくなって、顔の熱を冷ますためにお冷を飲む。


　


「スープも美味しいですね。」


「サラダも美味しい。」


「あっ、サラダにいちご入ってる。」


「意外と合うね！」


　


想像以上に美味しい料理に会話が弾んで、さっきまでの空気が嘘のように和やかな空気が流れる。


そのことに密かに安堵した。

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