早く言えよ！【knmc】

▶一言目 ページ1

　


　
______どうせいつもみたいに何も言えないんだろうな。

　

そう思いつつも、わずかな期待と、二人の時間が嬉しいだとかいう健気すぎる気持ちで、今日も僕は何度目かもわからない呼び出しに応じるのだ。


中庭の木陰に並ぶベンチの、奥から二つ目。


懲りずに僕を呼び出して、もう十回は繰り返したであろう挨拶にすらテンパってる彼女を見て、いい加減慣れろよと思う僕と、ずっと慣れないでいいよと思う僕。

………なんだそれ気持ち悪…。


　
髪をいじる癖は行儀が悪く見えるから控えてると教室で友人に話していた通り、その癖を封印して、落ち着かないのか代わりに足をもじもじさせている彼女に、胸がきゅんと鳴る。


くそ、これ見るの何回目だと思ってんだ。

僕の方こそいい加減慣れろよ。
　


うろうろと存分に目線を彷徨わせた後、意を決したようにこちらを向く焦げ茶色の瞳と目が合う。


少し潤んだその瞳に、また懲りずにドキリとした。


　


「……あの……剣持くん。来てくれてありがとう。……えっと、ごめんね、毎回毎回、その…。」


「いえ、別に。」


「よ、用事とかなかった？」


「ないですよ。」


　


嘘。本当はこの後普通に剣道部の練習がある。


怖い顧問に怒られる覚悟を決めてまでここにいる理由を、そろそろ汲み取って、言おうとしているその言葉を早く言ってほしいんだけど。


彼女の覚悟は萎んでしまったみたいで、またうろうろと視線を彷徨わせている。
　


生憎だが、僕はこの行動の裏に隠れた(隠れられてないけど)好意に気が付かないほど馬鹿じゃない。


彼女がしようとしていることは百パーセント告白だろうし、僕はその告白に対してYesを返すつもりでいる。


なんなら、僕の方から告白してもいい。

　

それでも僕の方から告白しないのは「彼女が頑張ろうとしている気持ちを汲み取りたいから」が二割。


残り八割は「僕に告白しようと頑張る姿が可愛いからもっと見ていたい」である。


　


「…っ、剣持くん。」


「…！はい。」


「私、剣持くんにずっと言いたかったことがあって。」


　


覚悟を決めたような強い瞳で、言葉を紡ぐ彼女。


ごく、と唾を飲み込んだ。


　


「………………い、いつも敬語で、物腰柔らかくて、いいと思う……。」


「…………どうも。」


　


______っ言えよ！！！！！！


お決まりのパターンに僕は、心の中でやはり何度目かわからない叫び声を上げた。

▶二言目→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す