003:芽生え ページ5
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ﾐｰﾝﾐﾝﾐﾝﾐﾝ、ｼﾞｼﾞｯ…セミの音のうるさい中、高校3年生達は全国模試を受けていた。この日ばかりは黒尾、夜久、海も部活は休み。指定された大学まで模試を受けに来ていた。
「ｯあﾞー!!なんｯだよあの英文何が言いたいんだよ!!」
「まぁまぁやっくん落ち着けよ」
「たしかに少し難しかったな」
今までよりも難しかった英語の模試は多くの学生を苦しめたようだ。休憩時間にトイレに立った帰りの3人の横を、見覚えのある同じ学校の制服の女子が鼻歌を歌いながら通り過ぎた。
「あっ、佐美さん!!」
「え？」
夜久がその女子の名前を呼ぶと、彼女は髪をふわりとなびかせて振り向いた。昨日、はちみつレモンを届けてくれた硝子だった。
「黒尾君、夜久君、海くん。3人もこの会場で受けてたんだね」
「つーか佐美サン？鼻歌なんて余裕ですね」
少し嫌味っぽく黒尾が言う。内心少しまずかったかな、とは思うが口から出た言葉はもう仕方がない。だが、硝子はふふっ、と笑って言った。
「だって、第5問の物語の長文が面白くって」
予想外の答えにポカン、とするが3人ともすぐに笑顔になった。
「ジョージとカエルの話だったよな」
「カエルに飛びつかれて…どうなったんだっけ？」
「尻もちをついたのよ。あれはそういう表現ね」
少し話をしていると、次の科目が始まる時間が迫ってきた。「じゃーな!!」といって夜久は足早に去っていく。
「俺達も行くよ」
「あぁ」
海に促されて黒尾も歩き出した。「それじゃ、頑張ってね」と言って硝子も歩き出す。
だが、硝子は足を止めて黒尾の方を振り返った。
180cmをゆうに超える身長、細身だががっしりした体。流石はバレーボール部でMBを務めるだけはある。
「おっきくて、かっこいいな」
小さく呟いた声は模試の試験官や係員が階段を上がってくる音に紛れて消えた。
彼女の頬は赤く染っていた。
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作者名：JUN | 作成日時：2019年2月19日 13時
