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「今日なんか涼しいね」
「うん、雲があるね。雨降りそう」


今日も私達は屋上にいた。

この世の全てに呆れ返ってるというのに、実際に将来役に立つことは何ひとつ教えてくれない学校に毎日通い続けるのは、逃げ場がここにしかないからだ。


父親に見られることがないように家からひとつ前の曲がり角で合流して、手を繋いで学校へ向かう。そのまま教室に行くのが大半だけど、屋上に直行することもある。火曜日の夜を経た水曜日の朝はだいたい後者だ。涼くんは何も言わなくたってわかってくれる。



「俺、もう嫌になってきちゃった」

涼くんは、雨雲がかかり始めた空を見上げてなんてことないようにそう呟いた。涼しいねって言ったのと同じ表情、同じトーンで。

私は涼くんの手を取って、ぎゅっと握る。
するとこちらを振り向いて、いつもと変わらない優しい微笑みを見せた。


「どう頑張っても兄貴にはなれない」
「涼くんは、涼くんだよ」
「うん。でも、俺には何の価値もないんだよ」


親が子供に言って聞かせるみたいに、優しく髪を撫でながら言う。

涼くんの内に抱えてる鬱などとは正反対に、水分量が多く光を集めて煌めく目や綺麗で尊い微笑みまで。私は全部ひっくるめて大好きだ。

けれどもそのギャップは、涼くんを苦しめるもののひとつでもある。



「最近、Aの魔法が効いてくれない」


涼くんがいなきゃダメになっちゃう。
その言葉が嘘でなく、私にとってはどれだけの懇願であったとしても所詮は魔法なのだ。結局呪縛には勝てず、いつかは解けてしまう。共感出来るからこそ、何も言えなかった。


私達は知らぬうちに、弱さと弱さが混ざり合った時、それは強さに変わるのだと少しの勘違いをしていたのかもしれない。

魔法の期限は、蝉の命よりも短い。



涼くんの情けなさを抱き寄せる。実際には、私よりもずっと大きい涼くんの身体に縋り付いてるようなものだ。

涼くんの身体は震えている。鼻をすする音が耳元で微かに聞こえた。涼くんの顔が埋まった私の右肩は、少しだけ濡れている。

それを隠すみたいに、空からポツポツと雨が降りはじめた。無限に広がるこの空は、私達の味方だろうか。そうならば今すぐ、私達を連れ去ってしまってほしい。





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作者名: | 作成日時:2019年9月1日 4時

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