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涼くんは私の手を親指で撫でながら、時折唇にそっと触れた。擽ったくて笑うと、涼くんもまた歯を見せて楽しそうに笑った。今日は何だか落ち着いていて、優しい。


「そろそろ戻らなきゃ」
「えー、やだ。」
「だめだよ。学校来た意味無くなっちゃう」
「でもAと一緒にいたい」
「また、放課後ね?」


渋々、といった様子で階段を降りていく涼くんを見送って私も教室に入る。この扉を開ける瞬間はすごく嫌いだ。沢山の目が、合わせたみたいに一度にこちらを向く。何だか気味が悪い。


「大丈夫?体調悪いの?」などと声を掛けてくるクラスメイトを適当にあしらって、なるべくそれが目に入らないように窓際の席に行くけど、そこには別の目が待ち構えていた。

好奇の目じゃない。キラキラと輝いた、好意の目。これはこれでまた、私にとっては苦手な類だった。



「前の席の子?Aちゃん、だよね」

黙って席に着こうとした私に声を掛けたのは、その目の持ち主。真っ白な肌と黒髪には見覚えがなかった。夏休み前には空いていた私の後ろの席に腰掛ける彼は、どうやら転校生か何からしい。




「初めまして、高橋優斗です!よろしく!」

ものすごく、綺麗な目をしていた。



私なんかに、優しくしないで欲しい。爽やかで心地の良い笑顔を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。差し出された手を握ることは出来なくて、「よろしく」とだけ言って前を向いた。



さっき別れたばかりなのに、無性に涼くんに会いたくなる。

この人ように一目見ただけで人柄の良さがわかるような人は苦手だ。自分の汚い部分がバレてしまいそうで、不安になる。今はこうして私なんかに優しく声を掛けてくれるけど、きっと全部知った時には離れていってしまうのだから。




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作者名: | 作成日時:2019年9月1日 4時

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