109話 ページ10
貴方「ッやめて…！！」
健人「じゃあ言うこと聞けるよね？」
ニッコリと口角を上げ、まるで小さな子供に言い聞かせる様に言う。
ほら、と言って玄関の方へ向かってゆっくりと背中を押される。
それでも行くのを躊躇っていると、背中を押す手がピタリと止まった。
健人「…そんなにこいつの事が気になる？
じゃあ気にならない様に殺して…」
貴方「っ…！やめて！行く、入るからッ…！」
本当は行きたくない。
でも、行かなきゃ、勝利君が殺されてしまう。
冗談などではない。兄はすると言ったら実行してしまうだろう。
今の私に、素直に従うこと以外出来る筈が無かった。
一瞬、気を失ったままの彼を見て必死に祈った。
お願いだから、彼を助けて。私はどうなってもいいから。
健人「…出てきたら駄目だよ？俺がいいって言うまで」
コクリと小さく頷き、やはり付いたままの鎖を引きずりながら、震える足を叱咤して部屋へと戻る。
あぁ、もう死んでしまいたい。
現に先程死のうとしていたのだ。問題は無いだろう。
けれど、私が死ねば、兄は激怒するだろう。
そして勝利君を躊躇無く殺すだろう。
階段を一段一段ゆっくりと登って行きながらそんな事を考える。
勝利君を救える一縷の望みがほんの少しでもあるのなら。
私が従う事で救えるのなら…
やがて部屋へと辿り着き、檻への扉を開ける。
パタン…、と扉を背にしてズルズルと壁伝いに座り込む。
貴方「………フフッ…」
思わず笑みが浮かぶ。
私は何を勘違いしているのだ。
私が死んだら兄が彼を殺す、なんて。
そんな最もらしい理由を付けているけれど、もう死ぬのが怖くなったのだろう。
貴方「は、あはははっ…！」
何で…
貴方「…………ッ何で」
自分の膝に額を擦りつけて頭を抱える。
貴方「…何でッ……こんなことになっちゃったのかなぁ………」
そんな弱い自分に心底嫌気が差す。
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作者名：ユリ | 作成日時：2021年6月5日 18時
