125話 ページ26
佐藤side
佐藤「…あ、や…えっと……」
このなんとも言えない空気を変えようと、しどろもどろに言葉を紡ごうとするが上手くいかない。
頬を挟んでいた手もパッと離して銃を突き付けられた時に手を上げるような体制になっている。
(ヤベェ、どうしよう…！どうしたら良いんだろう)
佐藤「…ッま、まぁ考え」
貴方「いい」
佐藤「…え？」
「まぁ考えておいてくれたら嬉しい」と途中まで言ったところで彼女の声が聞こえた。
「いい」そう言ったように聞こえた。
これはどういう意味なのか。良い意味なのかも知れない。しかし、悪い意味なのかも知れない。
佐藤「…それは、良いって…こと？
それとも…」
そう言うと彼女はバッ！と顔を上げた。その顔はまだ赤い。
貴方「良いってことッ…
私も好きだってこと」
佐藤「……………マジで？」
しばらく黙っていたが、
ちょっと今の状況が信じれなくて自分の頬をべチーン！と自分で叩く。
貴方「勝利君！？」
いや、好きだと言ったのは自分なのだが。
それでも、彼女も自分のことが好きだと、そう言ったのだ。
夢なんだと思えてくる。
しかし、今思い切り叩いた頬は熱を帯びてヒリヒリと痛む。
そして、彼女の兄に蹴られて切れた口の傷も痛む。
その痛みで今起こっていることが現実なのだと実感しだす。
グッと喜びを味わうように歯を噛み締める。
佐藤「…ッよっしゃあああああ！！」
ここは病院なのだということをすっかり忘れて大きく叫ぶ。
ズキンと突然右肩に鋭い痛みが走った。
佐藤「ッ痛！」
貴方「勝利君！？大丈夫！？そんなに叫ぶから…！看護師さん呼んでくるッ！」
佐藤「いや！大丈夫大丈夫！ちょっと痛かっただけだから」
そう言って立ち上がろうとした彼女の腕を掴む。
でも、と言う彼女を制止するようにいーからいーからと笑顔で返す。
こんな少しの痛みよりも今この状況の方が何倍、何百倍も嬉しいのだ。
今出来ればこの時は一緒に居たい。
佐藤「…えーっと……じゃあ、つ…付き合うってことで…良い？」
貴方「っ！……うん！」
驚いた表情の後に描かれた大好きな笑顔。
自然と自分も笑顔になるのが分かった。
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作者名：ユリ | 作成日時：2021年6月5日 18時
