紫の花に踊らされ【短編集】

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未だに睨んでくる彼女の腕を掴んてフォークを奪い取り、チーズケーキを一口分に取る。

「ほら」

ニヤニヤと笑いながら彼女の口より離れた場所で言えば、余計に眉を顰めるその顔が可愛らしい。

「やっぱり意地悪だ」

近くなら彼女なら直ぐに食べれてしまう。
だからあえて少し離した場所でフォークを構えれば、賢い彼女は意味を知ってしまうのだろう。

「なに、意識しとるん？」

俺が飲んだあとのコップは違うところに口付ければいいだけ、だけどフォークではそうもいかない。

「……食べる」

体をグイッとこちらに寄せて、食べる姿にちょっとした優越感。

けどその後に俺の足を蹴ってくるのはやめてくれ、痛い。

「ズルい」

プイッと顔を逸らす彼女はなんとも幼く。

「ズルいと思うんなら、さっさと卒業するんやな」

頭を撫でてやれば不服ながらも上目遣いで見てきて、わざとなのか否なのか全く持って分からない。

「そう思ってるくせに、煙草は吐くんだね」

俺の持っていたフォークは彼女に奪われ、2個のケーキを減らしだす。

「匂いはすぐ消えてまうけど、忘れへんからな」

ふんわりと香る、彼女の特有の匂いを俺が纏うことはまだ許されない。

だけど、逆なら少しは許されてもいいと思う。

「私に分かりやすくて周りに分かりにくい」

まだ慣れないコーヒーを飲むことはせずに、牛乳をコップに満たした彼女を子供と言っていいものか。

「あと数ヶ月やろ、我慢しな」
「それ、私のセリフ」

大人を挑発するようなそんな顔を学生がしていいのか。
それとも学生だからこそできる顔なのか。

「よく分かっとるやんか。なら、気をつけろよ」

姿勢正しく食べる彼女の頬を撫でて、耳元へと顔を近づける。

「A。お前だけは、煙草があてになるんやぞ」

なんて囁やけば、ポカンとした顔のあとにすぐに意味に気づいて顔を赤く染めてしまう。

「子供扱いなんてしとらんからな」
「これが大人の扱いなんて、子供には耐えられない！」

真っ赤な顔で睨まれたって、今すぐにでも乱してやりたくなるのに、それには気づけているのか。

「じゃあ、おやすみ。そろそろ学校近いんだから、体内時計直しとけよ」

後ろでまだ俺を見つめているであろう熱い視線を無視して、部屋に戻った。

本当に、我慢の必要がなくなったら、Aをどうするつもりなのか。

それは、鼻歌交じりに元々は歯磨きしに来たことを忘れてしまった、ニヤける口元を隠そうともしないずるい大人しか知る由はない。

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