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｢ほんまに、ええんやな。｣
｢うん。｣
｢痛いのは一瞬やから。絶対楽に死ねるところ狙ったる。｣
｢うん。｣
どちらともなく息が漏れ出す。それは寒さ故かはたまた緊張か。片方の手を握りしめ合い、震える手で的を狙う。男は武器の扱いを心得ていた。その絹のような髪に触れる。そうして、ゆっくり刃を肌に滑らせ、一気に差し込んだ。口から落ちた吐息は生きている証。開閉した口からは空気が漏れ出す。すきの二文字が見えた瞬間、男はナイフを引き抜いた。男と女は友情以上の感情を抱いていたのだ。それは、愛にも等しい。愛の象徴である赤色が白のキャンバスをぽたりぽたりと染めていく。最期に女から紡がれた男の知らない言語に彼は小さく、小さく笑みを零しナイフを落とした。
｢…なんやそれ。意味、分からんねん。教えてや。なぁ。｣
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──
─
｢Vorrei anniare nei tuoi amore｣
ふと、そんな言葉にゾムの顔が上がる。あれからゾムは一国の幹部となった。何の因果あってか、あの日あの時から自由のない世界を恨み、殺戮を繰り返してきた自分には有り得ないくらいの高待遇。街を巡回しているとふと聞き覚えのある声が柔らかく鼓膜を揺らす。
｢嬢ちゃん、それ。｣
｢この意味、分かる？｣
｢…分からへんなあ。意味、教えてくれへん？小さな先生？｣
｢うん！貴方の愛に溺れさせてって意味があるんだよ！A知ってて凄いでしょ！｣
｢おん。凄いなぁ？｣
ゾムがひと握りすれば容易に割れるであろうその小さな少女の頭を撫でる。梳いてやればいつの日か触れた絹のような髪の毛が指の間を通った。
｢私ね、将来先生になりたいの。｣
小さく笑うその姿は何かの追憶。重なる姿は遠い日の君。赤の似合わない水色の瞳と豊かな象徴翡翠の瞳とがようやく邂逅する。あの日、あの時の感触が蘇る。今の今までわざと触れてこなかったあの日の意味もようやく謎が解けたのだ。
｢そやったらさ、将来兄ちゃんと一緒に学校作ろうや。嬢ちゃんが知識を教えて、俺が運動を教える。文武両道な子が沢山出来るで？｣
｢ぶんぶ、りょーどー？｣
｢おん。要するに凄い子が育つって訳や。｣
｢ほんと？じゃあAお兄ちゃんと一緒に先生なる！｣
ああ、おかえり。愛しの君。
今度こそ君が俺の愛に永久に溺れてくれますように。
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