2 ページ33
.
雪はしんしんと降り積もる。気温こそ分からないにしても、今日が所謂氷点下な事は否が応でも理解出来た。ざくり、ざくり。雪を踏み締める音が鼓膜を揺らす。暫く歩くと見える小さな箱。男は1歩近付くと中身からかしゃんと音がした。
｢あ。｣
｢よう。｣
｢寒いのによく来たね。そこ座って？｣
女に促され、男は女と身を寄せるように小さく座り込む。胡座をかけば背中から感じる人の温度。それは生きている証。久しく触れていなかったその暖かみを目を瞑ってゆっくりと意識する。響く2人の呼吸音。2人だけの世界。幸せの具現化も等しく、あるのは寒くても和やかな2人の温度。上下する肩が直に触れるほど優しい時間だ。
｢ちょっと細くなったんちゃう？｣
｢そうかな。｣
｢絶対そうやって。前までこんな細くなかったやん。｣
｢ゾムは何ていうか…また筋肉ついた？｣
｢まあそやな。仕事増やしたし。｣
｢お願いだから無理しないでね？｣
｢お前に言われた無いわ。｣
背中合わせで男と女は話を続ける。まるで相対するかのような2人の様子は綺麗な黄金比と変わらない。痩せこけた体に筋肉質な体。心配する男を他所に女は彼の体を柔い指先でつつく。林檎のように顔を赤くさせた男は女から途端に目を逸らした。女はその様子を見てくすくす小さく笑う。耳まで染まりきった赤は女からも見て分かる程であった。半ば投げ出されたように放たれた言葉は不器用な男なりの心配だと女にははっきりと分かっていた。
｢そういやどうなん？｣
｢どうって？｣
｢いや、その…｣
不意に振り返った男はさも世間話でもするかのように問いかける。意味が分からなかったのだろう、女は小さく首を傾げた。言い淀む男の様はどこから見ても女を気にしているようにしか見えない。まるで、叱られるのを心配する子供のよう。言いづらそうに視線を右往左往とさせ、言葉を詰まらせた様子に、ようやく気付いたらしい女の顔つきが急に変わった。
｢まだ、大丈夫。｣
｢ほんま？ほんまにほんまなん？｣
｢うん。｣
｢そか。…うん。ならええねん。｣
雪はまだ降り積もる。もう暫くすれば寒さでここ一面が氷に覆われるだろう。2人の穏やかな温かさが外へと芽吹くのはいつの日になるやら。せめて、今この時だけは近くにいて、忘れないように。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 27人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
