【wrwrd】「 ─────── 」【企画前編】 (ページ17)

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悲劇のヒロイン/ht ページ17

将来は、立派な剣豪(ナイト)になりたい
幼い頃から【そういう家系】に産まれてしまった私の口癖は何時もこれだ

皆を守る力が欲しい、それを貪欲と豪快な強欲で繋ぎ止めようと手を伸ばし続けていた

しかし、幾ら伸ばし続けても【諦める】事をしなかった私にはまるですくい上げても指の隙間から零れ落ちる水を無理に、塞き止めている【と言っても過言ではなかった】のだ

それに気付いたのは、【遅すぎた幾度目の春の日】である

桜吹雪が春特有の微風に乗せられ、綺麗に舞っていた

そのまま私の頬も優しくなぞる風に心を落ち着かせながら、今日も私は稽古に励む
滴る汗なぞ気にすることもなく、ただ今日も強くなるためにと剣を振りかざしていた

『…何奴だ。隠れても無駄だとだけ言っておく』

｢…｣

ふと、【私以外の誰か】の視線を感じ稽古をする手を無理矢理抑え込み問うた
だが相手は何事も返す様子がない。私はため息をつきながら【もう一度だけ】問う

『もう一度だけ言っておく、隠れているのはバレているぞ。それとも何だ、私を狙う刺客か？来るなら来い、一思いに逝かせてくれよう。』

｢…｣

ふむ、返答なしか。余程腕に自信がある者か、恐れをなして小鹿のように足を震わせている弱小者か、どちらにせよ私は確認する必要がある

私はその刺客の方へと目をやれば、ヒュッと喉が締め付けられるような【恐怖】に襲われた

恐怖、なんてものでは収まりようもない
そんな言葉で現せるようなものではなかったのだ

私が見た光景

それは

桜吹雪の舞う直下で太い木の幹に身体を預けぐったりと倒れている【狂人】の姿だったのである
狂人、と名ばかりは恐ろしい等と肝を冷やす輩も存在するだろうが【これは違う】

死が、【身体が死を覚悟した】のだ

私は、震える足を何とか奮い立たせその者に近付く__