雨は止んだ。/snpi ページ1
ぽつぽつと雨が窓を叩く。 強くも弱くもない雨足は、不安定に風に攫われた。
「あほ。」
誰に向けた訳でもない罵倒が、部屋に落ちる。ひとつ、ふたつ。言葉は水になって水車を回し、抑えていた気持ちを逸らせる。早く、今すぐにでも、なんで。声にならない思いがぐるぐると身体の中を掻き回し、耐えきれずに窓際に倒れ込む。痕跡を残さない様に最低限の物しか置いていない部屋に、私の荒い呼吸が反響する。早く、速くはやくハヤク！！
「ごめんな。」
目の前が真っ暗になり、耳にはとくとくと早めの鼓動が聴こえる。冷えた身体は側面からじわりじわりと熱が移り、隅々まで知ったその熱に、思考が落ち着き状況を把握しようとまた回転を始めた。
「あ、ほぉ…」
「そうやな、ごめん。言い訳言ってもいい？」
「なに…」
「俺が会社辞めるって聞いた後輩ちゃんが告ってきてん。」
「そ…」
ふいと顔を背けると、縋るように頬に手を添えて、でもしっかりとした強さで視線を合わせてくる。意外と寂しがりなのだ、彼は。
戻された視線で、彼をよく見る。タレ目で、彫りが深くて、顎髭が生えて色気がある。告白してきた後輩さんも、きっと同じように惹かれたんだろうけど──
「聞いとる？」
しんぺが顔を覗き込む。
「んーん。」
私が首を振る。
「なんでやねん、面白いとこなのに。」
少しいじけた顔をする。かわいい。
「しんぺの顔が良くて見惚れてた。」
少しにやけてしまった顔で言う。
「っあほ。…そんでな？」
目を見開いた後に目尻を赤くして、話題を逸らす。
私の方が、もっと知っている──
「ん、なぁに。」
「今頃その子、ホテルで待ってるんちゃうかなあ？」
「えっ」
「あの子が勝手に行ってきたんやで？待ってますーって。あれは今まで振られたことない顔やわー。」
「しんぺひどーい。」
「僕悪くないやん！Aおるって言う前に帰ってまうし、付き合うだけ無駄や。」
ふんすと鼻息荒く、でも口角が上がっているしんぺ。後輩さん、かわいそ。でも同情なんてしない。だって私のしんぺだもん。
「ほら、いこか。」
差し出された手を握る。立ち上がる。恭しく靴を履かされ、隣で靴を履くしんぺの旋毛を見る。
「行き先は？」
「銀河ステーションへ。」
「最終列車に乗って、あの星まで行ってみようか。」
ぶおん。エンジンが唸る。じわりと動き出し、忽ち景色が置いていかれる。
後悔なんてない。だって今日は人生最初で最後の銀河の旅に出るんだから！
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