episode:10 ページ10
木刀を振っていた手がピタリととまり、全てを魅了するかのような瞳がこちらを向く。
バチりとぶつかり合う視線。
その瞬間息が出来なかった。わずかのことであっただろうにその時間が無限に感じられた。
「A?どうかしたか?」
その声で引き戻される。慌てて思考を切りかえ、中に入り杏寿郎さんの元へ行く。
『朝餉の準備が整いましたので呼びに参りました』
「あぁ!着替えたら直ぐに行こう!」
そう答える杏寿郎さんの頬をつぅっと汗が伝っている。私は思わず持っている手ぬぐいでその汗を拭った。ぴくり、杏寿郎さんの方が跳ねる。あ、やってしまった。
『も、申し訳ございませんっ!!!』
すぐに手を離そうとすればぎゅっ、大きな手がそれを阻止した。
『きょ、杏寿郎…さん…?』
私の問いかけには答えない杏寿郎さん。
メラメラと燃え上がる炎の中にとろりと花の蜜のような甘さを混ぜ込んだ瞳は私からそらされない。
何故だか私もそらすことは出来なかった。呼吸音すら聞こえない気がするほど二人の間には静寂しか無い。
血がぐつぐつ煮えるように熱く、掴まれた手からじんわりと杏寿郎さんの体温が伝わってきてなおのこと熱く感じた。
ゆっくりと杏寿郎さんの顔が近づく。唇が触れるまであとわずか、私は思わずきゅっと目を閉じた。一切抵抗する気は起きない、できることならそのまま口付けて欲しかった。
しかし何時までも触れることは無い。恐る恐る目を開ければ先程まで一切焦る様子のなかった杏寿郎さんが顔をぽぽぽっと赤く染めていた。
「す、すまない!!!!!」
「朝餉ができたのだったな!着替えてからすぐに行く!!」
「君は先に戻っておいてくれ!!」
『は、はい』
勢いよくバッと離れたあと杏寿郎さんはそう大きな声で言ってサッサっと行ってしまわれた。私の手には渡しそびれた手ぬぐいだけが残っている。
──杏寿郎さん、そんなことされたら私自惚れてしまいますわ……
思わずその場にへにょりと座り込んでしまった。あぁ、いけないまた頬が赤くなってしまった。
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にゃんちゅう(プロフ) - 凄くきゅんきゅんして読んでて楽しいです!更新楽しみにしてます! (2021年1月23日 0時) (レス) id: b651083bfd (このIDを非表示/違反報告)
杏鈴 - 最高!!!! (2020年3月10日 7時) (レス) id: f613416e65 (このIDを非表示/違反報告)
しょっと - どきどきします、最高でした!応援してます!!! (2020年2月24日 0時) (レス) id: 457ce269b7 (このIDを非表示/違反報告)
さささ - たまらなく好きです、夫婦最高たまらんです、、、 (2020年2月20日 15時) (レス) id: 893fe78743 (このIDを非表示/違反報告)
とみおか。 - 煉獄杏寿郎が可愛い!!!!!!よもやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!……失礼。好きです(( (2020年2月19日 22時) (レス) id: 4f05449344 (このIDを非表示/違反報告)
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