ちょうだい ページ7
結局あの後何一つ会話がないまま部屋を出た。私は気分が優れないからと断りを入れ朝食には戻らなかった。少し心配するような素振りを見せた大先生。
あの日々に戻りたかったはずなのに、その行動が素直に受け入れられなくなっている自分がいる。なんで優しくすんねん。もうわからない。私は何を信じたらええの？冷たい君たち？それとも昔のような君たち？
彼らは随分と変わってしまったように感じる。私だけ取り残された。遥か彼方最早追いつけることは無いだろう。肩を並べて歩んだあの日々がまるで嘘みたいで。
酷く吐き気がした。
私は自室に戻るのではなくそのままとある人のところに足を進めた。
────
『せんせーい』
「おや、A君じゃないか。ここに来るのは久しぶりだね」
『ちょっと忙しかったんよ』
顔の上半分を覆う狐面。柔らかそうなふわふわの髪。そう、私はくられ先生の元を訪れていた。私の頭を優しく撫でる彼は唯一昔から変わらない私の大切な人。
「それで、今日はどうしたんだい？」
『よく眠れるお薬がほしいなぁって』
「……眠れないのかい…？」
『最近ちょっと夢見が悪くてなぁ。幸せな夢が見れるお薬があったらええのにね』
なんて、そんなものないか。
先生に心配をかけるのは嫌だけどこれ以上眠れないのはまずい。寝ても悪夢ばかりですぐ起きてしまう。そしていつからか眠れなくなった。
「あるよ」
『えっ、ほんまに？』
私の頭をまたぽんと撫でて「どこだったかなぁ」と薬品の入った棚を漁る。しばらくすると見つかったのかまた戻ってきた。
「これを1粒飲めば3時間効果があるよ。副作用はなし。でも薬に頼りすぎるのも良くないから1日2錠まで」
「効果はその人の望む幸せな夢が見れる」
「きちんと用法を守って二週間に一度はここかもしくは軍医の元で検査を受けること」
いいね？と私に薬を手渡した。瓶の中にはいっている薬は我が軍の軍医しんぺい神さんと共同開発したらしい。それなら安心だ。
私は瓶をそっと仕舞い、おおきにというと先生は「いいよ」とまた私の頭を撫でた。私はこの人に随分と子供扱いされているのかもしれない。それでも変わらないでいてくれるくられ先生に心底安心を覚える。
『ほんま、ありがとなぁ』
変わらないでいてくれて。
あなたは無能な私と唯一変わらず隣を歩んでくれる大切な人。きっと先生には薬のお礼だと思われてるだろうけど。
それでも私はお礼を言う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2553人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もふもふ - 初コメします。今泣きながら読んでます。神作品を産んでくれてありがとうございます。 (2022年11月24日 18時) (
レス) @page12 id: a41408c385 (このIDを非表示/違反報告)
うさ - 水月華さん» すみません。そうだったんですね…。勝手なことをしてすみません。ですが私の端末ではコメを消せないので作者様が消してもらえるといいです。 (2019年11月6日 22時) (レス) id: 95908891b8 (このIDを非表示/違反報告)
水月華(プロフ) - 当作品の中にパスワードについて記載しておりますのでそちらをご確認ください。申し訳ないのですが読みたいと思っている方だけに読んで頂きたいと思っておりますのでそうでない人の目にもとまりやすいコメント欄でパスワードを書くのはやめてください。 (2019年11月6日 8時) (レス) id: fac1d7eb45 (このIDを非表示/違反報告)
うさ - パスワードは1029です。本人様ではなくすみません。ストーリーの中で見つけられず、コメ欄に来た方々にこのコメを見ていただけるとありがたいです。 (2019年11月4日 15時) (レス) id: 95908891b8 (このIDを非表示/違反報告)
案山子 - 凄く面白い作品でした！是非続編が見たいので、パスワードを教えてもらってよろしいでしょうか？ (2019年11月4日 1時) (レス) id: 51ee2da9ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
