▽ ページ10
ライブの日。
1ヶ月ほど日があったが、その日まで切花に会うことはなかった。
仕事もなかなか場所や時間が合わず、メールでも「元気ですか?」と時々送られてきたから、元気だと返しただけだった。
ライブのことはあえて伝えていなかった。理由なんて特にない。
今、隣には姪のちかがいる。
ちかはライブ会場につくと、興奮を抑えられないでいるようだ。しかし、あまりの興奮にいつもの自分を忘れているのか、雨歌の手を繋いでソワソワしているだけだ。
ライブ会場の入り口に入る。アリーナ席を取ることが出来たため、彼らを近くで見ることが出来るはずだ。
そこにはたくさんの人がいた。それも女子中心で、高校生や中学生辺りが多かった。しかし、それに限った訳ではない。ちかと同じくらいの子から、大人まで「アンドロメダ☆プリンセス」の登場を待ち侘びていた。
いつもはライブをする側なのに、ライブを観に来るのはとても新鮮だ。
雨歌の変装は気付かれていないようだ。ちかにも、雨歌と呼ぶことがないようにと言っておいた。
ライブ開始まで、あと少し。
ため息を吐きながら、開始を待つことにした。
__
ライブが始まり、彼らの姿が見えた瞬間、会場は歓声に包まれた。いつも味わうこの感じ。雨歌にとっては普通のことだったが、ちかにとっては少し刺激が強かったみたいだ。ちかは最初、呆然としていたが、少し経つと切花たちを輝く目で見つめていた。
一曲目が始まった。
雨歌は小さくペンライトをふり、目立たないようにした。ちかはペンライトをブンブン振っていた。
曲の間奏で、ひなた以外の2人はファンサなどをしていた。ひなたは、姪曰く"珍しい"ファンサを見せた。
一瞬だけ、切花をじっくり見た。一瞬がどれだけだったかはわからない。だけど、その一瞬の間で切花と目が合ってしまった。
切花はあっという顔をした後、こっそり雨歌にだけ、微笑んだ。その後、ちかの方に目線を移したのを感じとった。そして、切花は悲しそうであり、驚いたような表情を見せた。それを誤魔化すかのように、雨歌らに向けて、明るくウィンクをした。
「…!!にぃに!切花ちゃんにファンサ貰っちゃった…!」
ちかは大きい瞳から涙をぽろぽろと流していた。その後も、ひなたや他の一人と目があったりして、ひなたも「あっ」という顔をしていた。
帰りの電車の中で雨歌は考える。
さっきの切花の顔はなんだったのか。それは、雨歌がいくら考えても考え付かなかった。
3人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ