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声がした方を振り返ると、雨歌らと同じような服装をした女性がいた。
…あれ？違う。これ、女性じゃない。
どこかで聞き覚えのある声だけど、どこで聞いたのか…。それが、女性じゃないってことだけ、わかる。じゃあ、なんで？
「…あ、どうぞ！」
「ありがとうございます」
「…」
頭の中の考える糸がプツンっと切れたかのように、隣に座る人物を思い出す。
たしか、昨日テレビで見た人物だ。自分の解釈が間違っていなければ、『瀬藤切花』だ。
そして、切花がひそひそとした声で、「お兄様」と隣の人を呼んでいることから、彼の隣に座るのは切花の兄だろう。
こちらもひそひそ声で、悠良に「あれって、『アンドロメダ☆プリンセス』の瀬藤だよね？」と、自分たちだけに聞こえるように話しかける。
すると、悠良から予想外の答えが返ってきた。
「うん、そうだよ。偶然だよね」
悠良は2人を知っていたのか…。まあ、同じアイドルとして、知ってる確率の方が高いだろう。
だけど、2人を詳しく知っているような気がした。
「え、アンタ達ってどんな関係？」
「どんな関係って…？昔からの仲、所謂幼馴染かな？」
「へぇ…」
まさか幼馴染だったとは。
悠良の話によると、切花の隣に座るショートカットのお兄様というのは、「phoenix」というアイドルのメンバーの1人らしい。
ということは、アイドルが横に4人座っているということか。いや、かなりやばい状況だ。
向こうは、こちらについて気がついているのだろうか。
万が一、ファンたちに気づかたりしたら面倒なことになりかねない。
だって、アイドルが2人でもアレなのに、アイドルが横に4人並んじゃってるんだし…。
2人を横目で見ていると、いつのまにかイルカショーが始まっていた。
イルカが大ジャンプをすると、大きな水飛沫が観客席に向かってバシャンと音を立てた。
「うわっ！」
雨歌の服に水がかかり、雨歌は嫌そうな顔をマスク越しに浮かべる。もちろん気分も最悪。
まあ、少し濡れたくらいだから、晴天の今日はすぐ乾くだろう。
だが、雨歌は不機嫌になりかけていた。
「これ、使いますか？」
隣に座る切花が雨歌にハンカチを差し出した。
雨歌は差し出されたハンカチを見つめ、一瞬どう対応していいかわからなくなった。
いつものように、対応すればいいのに、そのいつもがわからない。彼に特別な感情を抱いているわけでもない。
急に話かけられたからだろう。
そう、絶対そうだ。
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