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すぅすぅとあどけない寝顔で眠っている翔の頬を滑るように撫でていた。ふたりでひとつの布団にくるまって、ひそひそ話をして、翔の隣で眠りにつく。こんなあたりまえもきっと今日が最後。そう思うと智はまた心が苦しくなる。
幼い、あどけない、大切な弟。
まだこんなにも幼い弟に泣かされてしまうとは。
今日のことを思い出して智は小さく失笑する。
小さな弟をこれから守って生きていかねば、とずっと思っていた。これまで守ってくれていた両親がいなくなった今この弟を守るのは自分しかいない、と。
なのに翔は簡単にその決心を破ってしまった。
本当はとても寂しかった。目の前で両親が死んだのだ。寂しくて、悔しくて、苦しくてたまらなかった。だけど、智には翔がいた。自分以外にこの小さな弟を誰が守れるのか。自分が守っていかねば。
そう決意して胸の奥の方に押し込んだ感情を容易く翔は引きずり出して、強がっていた智をいとも簡単に泣かしてしまった。
智くんのそのままで、それでいいんだよと言った翔はとても輝いて綺麗だった。それと同時に自分の本能が悟った気がした。
この輝きを逃してはいけない、と。
この子を失ってはいけない。
自分の理想で、憧れで、大切な
この小さな弟を失ってはいけない。
胸のなかに小さく芽生えた感情は、智を突き動かす。いつまでも、この先も智は翔がいないと駄目なのだ。だから翔に約束させた。「いつまでも智のそばにいる」と。
我ながら酷い兄だな。そう心のなかで呟いて呆れた。でもそれほど大切な存在だと気づいてしまったから。
「こんな兄ちゃんでごめんな。」
すやすやと寝息をたてる弟の頬を撫でた。優しく手を滑らせていると翔は少しくすぐったそうに微笑んだ。
「でも俺、翔の隣に居るからな。」
だから俺のそばから離れないで
それは確かに智の願いだった。
哀れな兄弟、可哀想な兄弟。もう自分たちは哀れで可哀想な兄弟と成り果てたかもしれない。それでもいい、と翔は言ったから。智と翔のそのままでいいと。
だから智は言った「奴らの夢を盗んでやろう」と。
俺達だって幸せな人生を送れるんだって。
そう智と翔は誓いあった。
いつまでも、遥か遠くの青空を探し続けて。太陽を越えて、雲を越えて。ずっとずっと先にだって。
ふたりなら行ける気がするから。
智は翔の左手を握り、そっと目を閉じた。
夏の夜は今日も藍色だった。
【 夏の彼方に 】 Fin.
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大翔(プロフ) - kkさん» 主催の者ではなく、練習曲29番を書かせて頂いただけの私ですが、主催の方がまだ作者さんを続けていらっしゃるのか分からないので、かわりにコメント失礼します。コメントしていただいて本当にありがとうございます! (2020年1月24日 23時) (レス) id: 7ff2e3a340 (このIDを非表示/違反報告)
kk - 素晴らしい作品!全部すごく良かったです。s受け尊し。 (2020年1月24日 23時) (レス) id: c2bfb0fe32 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵(プロフ) - Sさん» 突然失礼します、向日葵です。こちらはあまり更新しないのですが、青い鳥にて騒いでることが多いのでよろしければ…(@air__ap) (2018年2月1日 16時) (レス) id: 76ade9e498 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 返信ありがとうございます!! 早速検索かけます! (2018年1月28日 3時) (レス) id: 539aafff22 (このIDを非表示/違反報告)
あま音(プロフ) - Sさん» 恋色は青い鳥(@Kw_C2a)もやっておりますよ(*^^*) (2018年1月27日 9時) (レス) id: 95b1de6e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:「赤い櫻は冬に咲く」製作委員会 x他6人 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月21日 9時