50.父との挨拶は突然に ページ3
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Aはその時、前に祖母が言っていたことを思い出していた。
『いいかいA。お酒は飲み過ぎると毒になるのよ。アンタのじぃさんもよくお酒を呑んでは暴れていてねぇ…おばぁちゃんも苦労したの…でも、今となってはそれも思い出だけれど……とにかくお酒は人をおかしくさせるから、大人になってもあまり呑むもんじゃないよ』
(て、おばぁちゃんが言ってたから)
稹寿朗の手首を掴みながら、『やめときなさい』とAが首を横に振る。
「っ……テメェに、何が分かる」
静かに言って、稹寿朗がAの腕を掴みそのまま庭の方へと投げ飛ばした。
地面へと叩きつけられたAに、稹寿朗がそのまま啖呵を切る。
「お前に俺の何が分かる!呼吸も使えない弱者が!大した強さもないくせに鬼殺隊なんぞに入りやがって馬鹿も同然だ!人間の強さは生まれ持ったときから決まっている!」
唇が切れ、口の端から血を流したAが身を起こす、何も言わずに稹寿朗の言葉を聞き続けた。
「才能のある者はごく一部、後は有象無象、何の価値もない塵芥だ!杏寿郎も大した才能はない!その内無駄死にをするのが落ちだ!」
そう告げる稹寿朗にAが一枚の紙を見せる。
【師匠は死なない】
「はっ、テメェはまだ何も知らねぇからそんな…」
【私が死なせない。私が守る】
呆れる稹寿朗になおもAが書き続ける。
少し手が震えている、上手く筆が取れなくて掠れた文字になってしまった。
書き終わると、ゆっくりと立ちあがり、稹寿朗の元へ近寄り紙を差し出す。
【師匠を、もう、一人にさせない】
Aが稹寿朗を見つめる、普段とは違う嘘偽りのない真っ直ぐな瞳だった。
「………は、もう知るかよ」
殴る気力もなくなった稹寿朗が、部屋に戻り再び酒を手に取ろうとした瞬間。
ガシャァン!と音をたてて、Aが日輪刀で酒瓶を割った。
「おい…お前……」
稹寿朗が驚いた様子で、指を指す。
それは、酒瓶でなく、それを斬ったモノ。
「?」
ふっとAが手に持っている刀をみると、今まで何の変化もなかった日輪刀が
ー炎のような赫色に染まっていた。
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作者名:下野岸 | 作成日時:2021年2月22日 18時