49.父との挨拶は突然に ページ2
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Aが稹寿朗に挨拶をしたその後。
ふたりは縁側に座り、お茶を啜っていた。
「…………………」
どうしてこうなった…と稹寿朗は思う。
「(普通帰るだろ、なのに何故コイツは勝手に台所に行き急須と茶菓子を持ってきて、俺の隣に座っているんだ…何なんだコイツは…一体何がしたいんだ)」
まだAがアホな子だと気づいていない稹寿朗が困惑する。
そんな稹寿朗を他所にAはお茶請けのまんじゅうを食べながら肘を突いて横になっていた。
驚くほどのおくつろぎモードだ。人の家だと言うのに完全に我が物顔で居座っている。
「おい。杏寿郎はまだ帰って来ねぇぞ、遅くなるって言って出てったからな」
沈黙に耐えられず稹寿朗が言うと。
【あーじゃあ今日の夕飯は店屋物でもとりましょうか。天そばでいいですよ】
「なんで泊まる気満々なんだよテメェ。帰れっつってんだよ。つかせめて蕎麦だけにしろ、天麩羅のっけんな図々しい」
苛立ちはじめる稹寿朗を気にもせず、Aが紙を突き出す。
【私の家からここまで遠いんで、もう帰るのだるいんで、諦めて天麩羅定食(お刺身付き)にします】
「言ってる意味分かんねぇんだよ!つかさらに図々しくなってんじゃねーか!!」
思わず声を荒げる稹寿朗だが、Aが堪えるわけもなく何事もないかのようにお茶のおかわりを湯呑みに注いでいる。
「(何なんだよ…杏寿郎のやつ、コイツの何が良いんだ……瑠火とまったく違うが……あいつ女の趣味大丈夫か?)」
それを是非とも息子である本人に言っていただきたい。もうすでに手遅れかもしれないが。
まぁいい…と稹寿朗はAを無視することにして、飲みかけの酒瓶を手にした時だった。
ガッ。
「あ?」
Aが稹寿朗の手首を掴み、動きを止めた。
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作者名:下野岸 | 作成日時:2021年2月22日 18時