ボツ ページ38
ゾワッ。そんな感覚が全身を襲う。目の前から、大好きだったはずの彼が歩いてくる。
「お、A」
彼は昨日のことがまるでなかったみたいに、いつも通りの様子で話しかけてくる。
「もしよかったらなんやけど、今日出番終わってからご飯行かへん?」
「え、あ、えーと…」
戸惑っている私に、彼は的外れな気遣いをみせる。
「昨日言うた通り、もっとAと仲良うなりたいねん」
きっと悪気なんて1ミリもない。本当にそのままの意味なんだと思う。でも、その純粋な想いを気持ち悪く感じてしまう自分がいる。
「う、うん。いいよ。」
大好きだった彼からのお誘い。思わず受け入れてしまったが、やっぱりこの場をすぐに離れたくなった。
「よかったぁ。ほんならあとで連絡するな?」
ホッとしたような声色の彼の顔が見れなくて、私は目を逸らしたまま、
「それじゃあ、また…」
と軽く礼をして、彼から逃げるようにその場を去った。
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「もしかして、もともと俺のことあんま好きやない?」
そろそろ店を出ようかと言うところで、彼は悲しそうな顔をして、そんなことを言ってきた。
「え、」
「ごめんな。昨日あんなこと言うたのに、ほんま自分勝手やけど、もう誘わんほうがええかな」
ははっと乾いた笑いをする彼に、罪悪感が募る。
「違う、!私がただ…私が悪いだけ。濱家くんは何も悪くないよ」
「…ほんまに?」
「うん。ごめんね、私、自分を好きになってくれる人のこと気持ち悪い、って思っちゃうんだ」
ぎゅっと手に力を込めて俯く。彼の顔を見るのが怖くて仕方がなかった。
「そう、なんや…そうか、言うてくれてありがとな」
こんな時でも彼の声はすごく優しくて、泣きそうになる。
「ごめんね、ほんとにごめんね」
ひたすら謝ることしかできない私の隣に彼はきて、
「そんな謝らんといて。Aは悪うないやん」
優しく頭をなでてくれる。彼の手は温かくて、ついに涙が出てくる。
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作者名:みぃこ | 作成日時:2023年2月16日 15時