15 一等星の慧眼(下) ページ17
「詳しい事は日を改めて話そう。今日は夜も遅い。住所を教えてもらえるか?後日、責任をもって!太宰を迎えに行かせる」
『ああ、はい。わかりました』
私は懐からいつも持ち歩いているメモ帳とペンを取り出して、住所と、それから携帯番号を書いて国木田さんに手渡した。
「すまないが俺たちはこれから社に戻らねばならないから、送ってやれない。代わりにタクシーを呼ぶから、それで帰れ」
─それと領収書を貰っておいてくれ。と
国木田さんは直ぐにタクシーを呼ぶ電話を入れてくれた。
…なんて至れり尽くせりなんだ…。
その上タクシーが到着するまで待っていてくれた。
「気をつけて帰れ」
「Aちゃんまたね〜」
その日は、無愛想ながらも親切な国木田さんと、対照的に飄々としている太宰さんに見送られながら帰路に着いた。
遠ざかっていく倉庫の開け放たれた扉から見えたのは、敦君を背負う国木田さんの姿だった。
タクシーの中で考えるのは乱歩さんのあの言葉。
──君の"ソレ"悪趣味だ
そう云った乱歩さんの瞳を思い出す。
鋭い眼光でこちらを見据える翡翠色は、じっと何かを推し量るように私を見ていた。
悪趣味…。
悪趣味、ね。
私もやりたくてやってる訳じゃないんだけど。
こうしないと、ここでは生きていけないと思ったから。
でもそれを識った上でも、乱歩さんは入社自体には反対していないようだった。
──それは素直に、嬉しいな
乱歩さんはあの一瞬で私の凡てを見抜いたに違いなかった。やっぱり彼は世界一の名探偵だ。
私のこれについて隠すつもりは無い。
もしも問われる場面に直面したのならば、私は躊躇わずに打ち明けるだろう。
───君の最適はポートマフィアだ。でも、最善は
最後にそう呟いた乱歩さんの言葉に胸が熱くなった。
乱歩さんや太宰さんみたいに頭が回る訳でもない私が、考えて選んだ道を肯定されたような──そんな気がしたから。
「お客さん、着きましたよ」
『ありがとうございました』
領収書を貰うのを忘れずに、タクシーから下りた。
空に浮かぶ満月が綺麗な夜、星々達に見守られながら眠りについたのだった。
長い一日を終えたという、心地よい疲労感を子守唄にして。
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作者名:砂上 | 作成日時:2023年3月21日 18時