検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:6,825 hit

10 罪を憎まず、人を愛せと(上) ページ12

そんなこんなで、今私たちは暗い倉庫の中、押し込められた木箱に腰掛け虎を待ち構えていた。
敦君が虎に狙われているのなら囮に最適だ、という太宰さんの一言から連れてこられたわけですが。



私は囮としてじゃなくて、監視の意味で連れてこられた感じだろうなこれ。
ま、どちらにしろ私が断る道理はなく、彼の提案を二つ返事で承諾した。


敦君ははじめこそ同行を拒んでいたものの、協力報酬の値段に見事に釣り上げられた。



私は報酬の件は丁重にお断りした。
…お金、困ってないので。



「…本当にここに現れるんですか?」
「本当だよ。…心配はいらない」

完全自. 殺 と表紙に書かれた本を閉じて、「それにね」と太宰さんは続けた。



「虎が現れても私の敵じゃないよ。こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」
『わぁ、頼もしい。着いてきた手前云うのもあれなんですけど、私運動はからっきしなので、虎が現れた際にはよろしくお願いしますよ』
「うふふ。任せ給えよ」


ま、虎は既に私の隣にいるんですけどね。



「はは、凄いですね、自信のある人は。僕なんか孤児院でもずっと『駄目な奴』って言われてて──そのうえ今日の寝床も、明日の食い扶持も知れない身で…」



膝を折り曲げ、顔を俯かせる敦君の言葉を私も、太宰さんもただ黙って聞いていた。
くぐもった小さな声が、静かな倉庫内に虚しく響く。



「こんな奴がどこで野垂れ死んだって…。いや、いっそ喰われて死んだほうが───」
『敦君、敦君!』



木箱から飛び降り、敦君の前まで近寄る。
敦君は弱々しく顔を上げた。



『私はね、人間が大好き!どんな人間の命も美しいと思うし、どんな人生を歩んでいたとしても、好きなことには変わりないし。なんだったらそんなことはどうでもいいとさえ思ってるね』
「…どんな人生でも?」



今の敦君の表情を端的に表すのならポカン、だろうか。
それともキョトンかもしれない。

11 罪を憎まず、人を愛せと(下)→←9 汝が人虎なるや?(下)



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (28 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
83人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:砂上 | 作成日時:2023年3月21日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。