耳もとに、やさしい歌を。【鬼滅の刃】

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「A、ちょっと歩けるか」









「全然出来るよ、馬鹿にしてる？」









悪戯っぽく笑うA。









まだ、15の、あどけない笑顔。









これを奪おうって言うのか、神様とやらは。









いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないだろう。









俺はAの少し先に立ち、Aに声をかけた。









「そこからここまで、歩いてこれるか。


…真っ直ぐ、俺に向かって。」









「？いいよ、」









Aがこちらに歩いてくる。









ゆっくり、1歩ずつ。









そして、こちら側にAが着いた。









Aのこめかみに、つう、と一筋の汗が伝った。









Aの焦りの匂いが、つんと鼻に抜ける。









「…A」









俺の方に向かってきたはずのAは、俺の目の前にたどり着くことなく、俺の左側へとたどり着いた。









真っ直ぐ歩けていない。









それがどういうことなのか、もう言わなくても分かっていた。









「右目、見えていないのか？」









声が震えてしまった。








違うと、言ってくれ。









どうか、まだ…









「…バレたか」









ヒュ、と息を飲み込んだ。









青ざめる俺とは反対に、Aはまたへらりと笑って見せた。









どうして笑っていられるんだ。









辛いだろう、俺が思うよりもきっと、ずっと辛いじゃないか。









なんで、なんで笑っていられるんだ。



なんで…









「今日の、朝からね…右目が白んで見えるんだ。
完全に見えなくなったわけじゃないよ、でも時々視界の端から白靄が出てきて、右目を覆うんだ。だからね、さっきから平衡感覚がどうにも掴めなくて、ふらついちゃったり今みたいに真っ直ぐ歩けなかったり、しちゃうんだ」









左目はまだ大丈夫なんだけどね、と言いながらAは右目にそっと手を這わせた。









「まだ、戦えるかな…きっと、大丈夫だよね」









「Aは、辛くないのか」









「え？」









炭治郎が、苦しげにそう口から漏らした。









その薄くひきしまった口をぎゅ、と結んで、悔しげに。









炭治郎のほうが、辛そうだよ。

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