こっち向いて、マイダーリン (ページ6)

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「ごめん、やっぱり別れたくない、もう一回やり直したいんだ」

頼む、と大勢の中で頭を下げられて面倒だな、と溜息をつきたくなった。

ちらりと隣を歩いていたチャンさんを見ると、少し気まずそうに小さく「例の元彼さん？」と言ってきて少しだけ頷いた。正直一度私を振った人ともう一度付き合うなんてしたくないし、何とか理由をつけてここを離れたい。例えば、もう新しい彼氏が……

そうだ、隣にいるチャンさんが最適じゃないか。一瞬だけ迷惑をかけるかもしれないけど、ここを切抜けるためにも少しだけ協力してほしい。私よりも数センチ上にある顔を見て、眉を下げて困ったような表情をしているチャンさんの腕に抱きついた。

「ごめん、私もう新しい彼氏できたの。ね、ダーリン？」

「え、は……？」

「ねえチャニオッパ、この後家来るって言ってたでしょう？」

「あ、うん……そうだね、ハニー？」

さすがに不味いかな、と思ったけど言葉にしたものを取り消せるわけもなく、少し抱きついた腕に力を入れるとそれなりに返してくれたチャンさんに感謝しかない。後でお酒でもコーヒーでも何か買ってお詫びしなければ。

「俺たち別れたの、ほんと一週間前くらいのことじゃんか！」

「だからその間に出来たの！私のこと振ったのはそっちなんだからもう放っておいて」

チャンさんの腕を引っ張って「行こう、ダーリン？」なんて、ハートマークでも着くような勢いで言うと、元彼とは反対の方を向いて駅まで歩き出した。

呆れたのか、元彼も追ってくることなく離れて角を曲がったところで勢いよくチャンさんに頭を下げる。

「本当にすみません！あの、これ良かったら貰ってください。さっき買ったばかりなので」

「いやいや、いらないよ！気にしないで、あんな感じで大丈夫だった？」

「全然大丈夫です、本当に助かりました。あの、これ受け取ってください」

「あー……俺、あんまりカフェイン取らないんだよね。本当に大丈夫だから」

頑なに受け取ってくれないチャンさんに、渡そうとしていた缶コーヒーをビニール袋にしまった。

けど、さすがになにかお礼をしたくて何にしようか案を絞り出す。

「……それなら、ランチ……また居酒屋でもいいです、ご飯奢らせてください」

「うーん……本当に大丈夫なんだけどね。じゃあ、時間あるときご飯でも行こうか」

ようやく折れてくれたチャンさんにありがとうございます、なんてなんのお礼か分からないけどそう言って、それから連絡先を交換した。

それから数日後、私たちは居酒屋で会う約束をしたのだった。