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書斎の前に立って、震える息をはあ、と吐き出した。大丈夫、大丈夫、と自分の中で唱えてノックをして書斎のドアを開けた。
眼鏡をかけてパソコンを触っている父は、こちらを少し見ては私だと分かると話しかけることすらせずに、また視線をパソコンへと戻した。
久しぶりとか、元気かとか、どうしたんだとか、そんなことを一切かけてこない父に、この人は変わってないな、と胸が押し潰されそうになった。
「聞きたいことが、あるんだけど」
「……お久しぶりです、の一言も言えないのか」
低い声でそう言った父に喉がきゅっとなって、少し怯んだけど、それどころではないから、ぎゅっと拳を握って一歩前へ進む。
「会社の、ことなんだけど」
「なんだ、上手くいってないのか」
「……今、社内で私の噂が流れてるの。コネ入社なんじゃないかって。でも、私、ちゃんと面接したし、親のことなんて詳しく言ってない。火のないところに煙は立たないって言うでしょ。なにもないならないで、いいんだけど、ちゃんと教えて」
目線はパソコンの画面を見たまま、私の方を一切見ない父に、やっぱり何も言ってくれないか、と諦めようとしたとき、父の口がようやく開いてぐっと息を飲んだ。
「……就職に失敗して変な会社に入社されても困る。それなりに大手のところに就職してた方が会社の名前に傷がつかない。娘がわけの分からない会社に就職してバカにされることもない」
「……どうして、私があの会社にエントリーしたって知ってたの」
「お前は昔から何も知らない。お前はうちの会社のことを知ろうとしなかったからね。あの会社は元々取引してた会社だ。そんなことも知らないで働いてたのか？」
会社のことを知ろうとしないも何も、女に教えることはないって突き放したのはそっちのくせに、何を今更。口を開けば会社がどうこう、こんなのが関係上父親だということに吐き気がしそうだった。
「……知ってたら、あんな会社応募なんてしなかったよ。会社のこと、なんにも教えてくれなかったくせに、どうして私がバカみたいな言い方されなきゃいけないの？私はアンタのせいで今肩身狭いなかやってるのに……！」
「親に向かってどんな口の利き方をしてるんだ！」
「今更父親面しないでよ！アンタのことなんて父親だなんて思ったことない！」
「A、落ち着いて……」
「お母さんも……！今更なんなの？いまさら、母親みたいなことしないでよ！今まで、今日みたいにしてくれたことなんてないくせに！」
私に手を伸ばす母の手を叩いて、そのまま家を飛び出した。こんな家、二度と、帰ってきたくない。
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作者名：さくらんぼ
| 作成日時：2024年2月17日 18時
