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「嫌じゃなかったらでいいんだけど、俺に話してみて」
「……べつに、話すことでも、ないんですけど」
「うん」
「この前、仕事押し付けられて遅れたじゃないですか。それが最近、私に、一点集中してて」
チャンさんは相槌を打ちながら私の話を聞いてくれていた。私がパク財閥の娘だと分かっても、特に驚く様子もなく話を聞いては、相槌を打って、変に口を出すわけでもなく、途中で言葉に詰まると背中をさすって、急かすことなく待ってくれていた。
「悔しいんです、私は何も知らないから、本当のことを知ってるのは父と上司だけだから、私が否定したって、信じてもらえない」
「Aちゃんのお父さんは、Aちゃんから見てそういうことをする人なの？」
「……分からないです。父とまともに話したのも、もういつだったか……家に、いたことの方が、少ないし。私が、何しててもどうでもいい人なんです。私に、期待してなかったから」
母から、父は男の子が欲しかったと何度も聞かされたことがある。跡継ぎとして男の子が欲しかったのに、お前は子どもが出来なければ、一人いる子どもは女なのか、と散々責め立てられたと、幼い私に言っていた。
本人は幼いうちは記憶に残らないと思って言ったのだろうけど、こういうものは意外と覚えているものだ。
「Aちゃんはそのこと知らなかったんだし、ちゃんと面接受けたり、就活して入社したんだから、気にする必要ないよ。ただ、噂の段階でそんな嫌がらせしてくる部長はどうかと思うけどね。はぁ……本当にそんな大人気ない人っているんだ、幼稚すぎる」
チャンさんがイラついているところを初めて見た。しかも、この前友だちになったばかりの私に、ここまで怒ってくれるんだと、少し嬉しくなった。
大抵の人は、こんなことを果たしても「大変だね」とか「それは酷いね」と言うだけで、怒ってくれるような人はいない。チャンビニやオンニなんかは怒ってくれるだろうけど。
「Aちゃんの会社の話だから、俺が口出しできる話じゃないけどさ……もっと辛くなるようだったら、違う仕事見つけてみるのも、ありだと思うよ。俺たちまだ若い方だし、全然間に合うと思う」
「……そう、ですかね」
「吐き出したいことあったら、俺に言ってもいいからね。友だち、だし」
チャンさんはそう言って私に優しく微笑んだ。
どこか作ったような笑顔ではなく、こんなにも柔らかく笑うチャンさんの表情を見るのは、初めてだった。
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作者名：さくらんぼ
| 作成日時：2024年2月17日 18時
