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「あーAさん！ごめん！これもよろしく！」
「あ、じゃあお疲れ様でーす」
「はーいおつかれー。じゃ、僕も帰るから！明日必要だから、よろしくね！」
同じ部署の人が、私を見て笑っているような気がした。
ほぼ人がいなくなったオフィスで、パソコンをカチカチ打っては途中でコーヒーを飲んで、タバコ吸って、また戻ってパソコンを打って、終わった頃にはもうとっくに九時を過ぎていた。
「……なんなの、ほんとに」
ようやく会社を出て、駅まで歩いているうちに悔しくなって涙が出てきた。ここでちゃんと部長にやめてください、と言葉にできない私も嫌だったし、噂が広まってるのも、その噂が本当なら、父にだってどうしようもない怒りが込み上げてきて、だけどそれをぶつけられるものも場所もなく、涙となって流れていく。
メイクが崩れることも気にしないで、流れてきた涙を白いシャツで拭って、歩いていく。道行く人が私のことを見ている気がしたけど、そんなこと気にしていられなかった。止めようと思っても、止められないのだ。幼い頃、家の前で泣いていた時のように、止まらない。
「……っ、A、ちゃん」
「チャン、さん……」
後ろから腕を引っ張られて、チャンさんの顔を見ると心配そうに眉を下げて私のことを見ていて目を逸らした。慌てて反対の腕で涙をふいて「こんばんは」と挨拶をすると、今度は眉をひそめて「どうしたの」と言ったのだった。
「どうも、してないですよ。今日も残業、しちゃって。あー、仕事、効率的にするの苦手なんですよね」
「それで、泣いてたの？」
「な、泣いてないです」
「そんな顔して泣いてないって言う方が難しいんじゃない？」
チャンさんにじっと見つめられて、嘘を、つけなくなった。腕を掴んでいたチャンさんの手が、私の手へと移って、そのままぎゅっと握られた。
寒い冬だというのにチャンさんの手は温かくて、私よりも手が大きかった。
離す気力もなく、ただ手を引かれるまま駅へと向かい、人がいないホームのベンチへと座り込んだのだった。
「……変に、お店とか入るより気使わないかなって思ったんだけど」
「ここで、大丈夫です。ありがとうございます」
使って、なんて言ってハンカチを渡してくれて、受け取るのを渋ったけど、引いてくれる気配がなかったため、それを受け取った。
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作者名：さくらんぼ
| 作成日時：2024年2月17日 18時
