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「……ゆめ、か」
はっと目が覚めると、辺りはいつもと変わらない部屋で、妙に鮮明な夢だったな、と変な気分になった。
今日も仕事だと言うのに、ちゃんと寝れた気がしないまま準備をして家を出る。電車の中でも寝そうになってしまって危なかった。
昔は、今に比べたら何も考えないで過ごせていて楽だったなと思う。今はどのくらい稼いで、どのくらいのお金が生活費として消えて、このまま今の会社で働いていくのか、とかいつか転職して……とか、とにかく生きていくことで大変なのに。
「朝なのにお疲れだねー、今週もあと二日だから頑張って」
「……はい」
最近、上司の仕事を押し付けるターゲットが私に定まりつつある。ここ最近はほぼ定時ギリギリで「これ明日までだから！」と押し付けてくるのだ。
頑張って、という上司にお前のせいだよと、言いたくなったけどそれを言ったって誰かが味方してくれるわけでもない。みんな、自分に回ってくるのが嫌だから結局は黙りを決め込む。
ため息が出そうになったけど、周りに気づかれると面倒だからそれを飲み込んで、行きの途中で買ったコーヒーを飲んで、パソコンに向かった。
「休憩頂きます」
「はーい」
気づけばお昼時、財布を持って社食が食べられる食堂に移動する。歩いている途中給湯室があって、ここって結構社員のはけ口になるんだよな、と通り過ぎようとしたら「Aさんってさ」と私の名前が出てきて、思わず直前で立ち止まった。
「パク財閥の一人娘なんだってよ」
「そうなの？確かに名字は一緒だけど」
「まあパクなんていっぱいいるしね。でもあれはマジだよ。聞いちゃったんだよね、Aさん採用したのってお父さんの頼みだったらしいよ」
「お父さんって財閥の会長じゃん。え、なに、じゃあコネ入社ってこと？」
「そうだよ、私らが必死になって就活してる時気楽にしてたんだよー、ムカつくよね」
「あー、だから最近部長Aさんに仕事押し付けるの多いの？」
「じゃない？楽に入社してんだからそのくらいやんなきゃね」
「ね、ここどんだけの倍率だと思ってんだろ」
何も、聞いたことない話だった。
面接のとき親のことを聞かれても自営業で、としか言わなかった。会社名も、どんな会社なのかも、何も言わなかった。父は、私がこの会社を受けると知っていてお願いしたの……？私が知らないだけで、そんなこと……
行こうとしていた食堂に行く気力もなく、近くのラウンジでただコーヒーを飲んでぼうっとしていた。コーヒーの味さえ、分からなかった。
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作者名：さくらんぼ
| 作成日時：2024年2月17日 18時
