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時計の音が響く中でも、
俺は彼女を抱きしめる力を弱めようとはしなかった。
彼女が何も言わないのなら、
このまま朝までずっと抱きしめていよう。
そう思った。
『…っ、は』
突然、押し込んでいた息を吐き出すような声が聞こえたので、
驚いてさっと体を離そうとする。
『離さないで』
小さな震えた声が聞こえた。
本当に小さくて消え入りそうな。
少し解きかけた手をまた元に戻す。
……彼女は泣いているのだ。
声を押し殺しながら静かに涙を流している。
顔が見えなくてもさっきの声と、体の震えで分かる。
『怖いの』
俺はゆっくりと彼女の背中をさすった。
きっと彼女は本音を言ってくれるんだろうと気づいた。
『すごく、っ…すごく怖い…』
泣きながらも少しずつ発される言葉に俺は耳を傾けた。
『でも、口に出した…、ら耐えられなくなる気がした…っ、から』
心が痛くなった。
とんでもないくらい痛んだ。
やっぱりあの笑顔と明るさは本心を隠してのものだった。
『"大丈夫"って言って笑えばきっと…、大丈夫なんだ…っ、て』
俺は、彼女に本音さえも言わせてあげられない奴だった。
自分を情けなく思うしかない。
「A、俺、ほんと…」
ごめん。
そう言い出す前に、彼女は俺から勢い良く離れた。
涙で濡れた顔が見える。
…あぁ、泣き顔を見たのはこれが初めてだ。
彼女が今までどのくらい色々なことに耐えてきたのか。
どのくらい一人で涙を流したのか。
それさえも分からない。
『ホソクに謝られることなんてなにもない』
そう言ってまた新たな涙を流す。
『…いつでも私を思ってくれてるホソクは私の支えなんだよ』
彼女は赤くなった目を俺に向けて
瞼をゆっくり閉じながら、頬の涙を拭った。
"最後の…私のお願いを聞いてくれないかな"
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作者名:とまと | 作成日時:2016年8月25日 21時