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時計の針は規則正しく進んで、俺らに時間の進みを教える。
このまま時が止まって、
彼女が死ぬなんてことがなければいいのに。
何度そう思ったことか。
でも、そんなのは無理だった。
『ホソクー』
「ん?」
ベットの沈みによって、二人の顔の高さが同じになっている。
横を向いて彼女の目を見ると、照れくさそうに笑っていた。
『最近さ…』
何に照れているのかと不思議に思ったけど、
彼女の次の発言で分かった。
『キス…とか、あんま…してないなって』
「…、」
耳を赤くさせて俯く彼女がとてつもなく愛おしくなった。
優しく抱きしめて、
下から掬い上げるように唇を重ねる。
ただ重ねるだけの行為。
それでも、満足だった。
彼女も同じ気持ちだったのか、
唇を離したあとの表情はとても柔らかかった。
『…ありがと。笑』
お礼なんて、いるわけないのに彼女はそう言う。
俺より小さい体を抱きしめたまま、ベットに倒れ込んだ。
お互い向き合う形で横になる。
二人の間にある手は、絡められた。
彼女の存在を確かめるかのように、手に力をいれた。
『……じょ、ぶ』
「え?」
呟いた声が小さくてもう一度聞き返す。
真っ直ぐ俺を見つめる彼女の瞳が、一瞬揺れた。
『大丈夫だよ、ホソク』
「…っ」
俺は、また目の前の人を抱きしめた。
さっきよりもずっと強く。
「なぁ、A」
『なに?』
俺の耳元で小さな返事が聞こえた。
俺は声が震えそうになるのを堪える。
「なんで普通にしてられるの?なんで俺に"大丈夫"なんて言うの?」
『なんで…って…ただ、』
「俺がAに言うべきなのに。
なんで俺がAから元気をもらっちゃうんだよ」
"死"が迫っていて、大丈夫なはずない。
彼女は黙った。
何を考えているのか、何かを言おうとしているのか。
表情が見えないから分からない。
その静かな時間はとても長く感じた。
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作者名:とまと | 作成日時:2016年8月25日 21時