月は、上りて 参【煉獄杏寿郎】

. ページ17

「…少し怖がらせてしまったか」

「……ちょっと、だけ…」

「任務なのはわかっている。蝶屋敷の神崎少女から話を聞いた。あの少女の代わりに宇随に強引に連れてこられたのだろう？」

「…はい。よくご存じで…」

「君は雨宮殿に鴉を飛ばしただろう。雨宮殿は引退した身だから手は出せないと君の鎹鴉に命じて俺に知らせてくれた。…この任務は俺も加わろう」

「………！」


バッと顔を上げたAは目を見開いて煉獄を見た。


「…だ、大丈夫なんですか？そんな、急に…」

「お館様からの正式な許可もいただいた。尤も…戦力としては足りないからな、あくまでも輔佐という形だ」


ちなみに煉獄は任務の許可が下りて遊郭に行くことを雨宮に伝えてある。
雨宮からの返事は、弟子をよろしく云々…などとの他に最後に一言。


『音柱が帰ってきたら二人でボコらね？』


みたいな感じの事が書かれていた。


煉獄は即行で「ぜひ！」と送り返したことはAには内緒だ。
恋人を遊郭に送り込んだ罪は重い。
この体でまだ奥義は使えるだろうか…とここに来る前に試してきたばかりである。



「君が遊郭に潜入している間は、店に話をつけて俺以外の客は取らないようにさせる」

「…元々見習いなので本来お客は取れないのですが」

「それでも金を出せばまかり通ってしまうのがここだ。君はもう少し危機感を持ちなさい！」


ギュッ…と抱き締められたAはゆっくりと煉獄の背中に手を回した。



「ふふっ…」

「…？こら、俺は怒っているんだ！」

「……ごめんなさい。…でも…」

「ん？」



Aは煉獄の着流しに顔を埋めて小さな声で言った。



「……怒られてるのは、承知してますけど……それより、この任務中も杏寿郎さんといられるのが、嬉しくて……」


「っ……！！」



煉獄が目を見開いたかと思うと、何かに耐えるようにゆっくりと息を吐き出した。



「悪い子だ、本当に…。やはり俺は君を甘やかしすぎてしまったようだな？こんなにも無防備な子になってしまって…」

「あ……！」



スルリと煉獄の手がAの足を撫でる。
乱れた着物の裾から手を差し込まれてピクリと体が跳ねた。


「可愛いことを言ってくれるな、A。君を暴きたくなってしまうだろう…？」


低く耳元で囁かれたAはひっ、と煉獄の着流しを握る。


「せっかくこういう場所なんだ、少し予習しようか。…あぁ、きちんと周囲の気配にも気を配るように。あくまで任務の最中だからな」

.※→←.※

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す