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「…じゃあね」


「……おい」





背を向ける私の腕を、中也が掴む。





「どこにも、行くなよ…」





私はその言葉に唇を噛みしめる。





「……離してよ」


「嫌に決まってんだろ」





離れようとする私と、離すまいとする君。



二人の想いはもう、交わらないのに。






きっとこの時の二人は必死だったんだ。







だから私は、ここで最後の嘘をつこうと思う。





「中也…。また、会えるから」





会えないよ。



ここで別れたらもう会えない。






でも、もしこの嘘一つですべてを終わらせることができるのなら。






「……本当かァ?」


「うん、本当」






なんて素敵な嘘だろう。





「だから今だけは、この手を離して」







これはきっと、中也につく最後の嘘。





中也の手がスルッと離れる。






「…バイバイ」







私は小さく笑うと、もう一度二人に背を向け歩き出す。






「……A」





君が私を呼び止める。





「何…?今、バイバイって言ったじゃん」





引き止める術もなく、呼び止めることしかできない君に



私は呆れたように笑いながら振り返った。






でもこの時、本当は…。






「…また、会えるよな?」




嬉しかったんだ。





君はまだ、私の名前を呼んでくれる。



こんなにも私を想ってくれている。





それだけでもう、十分だよ。








私は中也の問には答えず、もう後ろを振り返らなかった。





中也も、もう私を呼び止めなかった。






「Aちゃん…!」



遠くから聞こえる太宰の声。







もう、二度と二人には会えない。








もっと、優しくしておけば良かった。




笑いあっていれば良かった。




好きだと伝えておけば良かった。




「これで良かったのかい?中也」


「嗚呼…仕方ねぇよ」




もしかしたらもう会えないことを君はわかっているかもしれない。






「…中也…太宰………大好きっ……」








この言葉は誰の元にも届かない。









さようなら、大好きな人。






さようなら、愛する人。









君を想い、君の幸せを願い、私から手を振るよ。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 文スト , 中原中也   
作品ジャンル:恋愛
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暁月臨(プロフ) - 涙腺ガバガバでヤバいです!更新待ってます!!! (7月18日 18時) (レス) @page5 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
蓮蜜 - 更新頑張って下さい! (2021年10月30日 11時) (レス) id: a6fc2eacdc (このIDを非表示/違反報告)
蓮蜜 - 読みながら泣いちゃいました…夢主ちゃんには幸せになって欲しいです! (2021年10月30日 11時) (レス) @page5 id: a6fc2eacdc (このIDを非表示/違反報告)
teo_taniyama122(プロフ) - sot3y1z1kさん» 返信遅れてすみませんでしたっ。。ありがとうございます!最高に嬉しいです (2020年12月20日 10時) (レス) id: fa78e927e4 (このIDを非表示/違反報告)
sot3y1z1k(プロフ) - 凄い感動しました!見ながら自然に泣いててもう本当に貴方、天才ですか?これからも、頑張ってください!応援してます! (2020年7月12日 12時) (レス) id: 9417010afe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いちごーや x他2人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月29日 11時

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